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CAの仰天アナウンスが熊本の航空会社を救った―天草エアライン危機突破の物語

黒木亮(小説家)、河合薫(健康社会学者/気象予報士)

2018年08月13日 公開 2019年04月03日 更新

 

上司は叱ったが、社長は笑い転げた

河合 私が書いた『残念な職場』は、「無責任な上司が出世するのはなぜか」など、職場で理不尽なことが起こる理由をエビデンスに基づいて解説するという内容の本なのですが、最後の章では「仕事は本当は楽しいものなんだ」と訴えるために、社員一人ひとりを大切にしている職場の例をいくつか載せているんです。

その中の一つに、天草エアラインの例を挙げました。

2009年に社長に就任した奥島透氏が、自ら現場の仕事を手伝いながら「天草らしさとは何か」をしつこく社員に問い続けたことで、社員の士気が上がっていった様を紹介したのです。

天草エアラインの第一印象は、「ああ、私が入社したころのANAみたい」というものでした。

天草エアラインの飛行機には親子のイルカの絵が描かれているのですが、以前、福岡空港でその「親子イルカ機」が空港の遠くのほうにぽつんと停まっていたのを見たんです。

小さな会社の飛行機は、空港ではどうしても不便な場所に追いやられてしまうのですね。私が入社した頃のANAも、まさにそんな状況だったんです。

国際線就航2年目で、国際線をたった2機で運営していました。それで、天草エアラインに興味を持ったんです。かわいくて、せつない飛行機だなと……(笑)。

やがて、天草エアラインが黒字化したという記事を読んで、その際に「破れたストッキング」の話も知りました。

『残念な職場』にも書きましたが、奥島社長が就任する前に、社内に漂う空気をどうにかして変えようと、ちょっと変わったアナウンスを試みたCAがいたんです。

「みなさま、本日、都合により私のストッキングが破れておりますが、どうか気になさらないようにお願いいたします!」

当時の上司からはこっぴどく叱られてしまうのですが、奥島新社長はその話を聞いて「おもしろい。いいじゃないか!」と笑い転げ、「天草らしいね」と彼女をねぎらったそうです。

黒木さんの『島のエアライン』の中にも、昔のANAを彷彿とさせることがたくさんありました。

上巻で天草エアラインの立ち上げの苦労について読んだときは、ANAの前身である日本ヘリコプター輸送株式会社(通称日ペリ)が航空事業に参入するときの話が思い出されました。

社員の給料を払うために駆けずり回った美土路昌一、岡崎嘉平太、若狭得治などの言動が、当時の全日空の社員に大変な勇気と元気を与えていたんです。

1970年に社長に就任した若狭得治氏は、ロッキード事件で逮捕されるなど毀誉褒貶のある人物ですが、彼はずっと「ホノルル路線がないことは恥ずかしいこと。ホノルル路線は絶対運航すべきだ」と主張していました。

いよいよ念願の名古屋‐ホノルル路線が開通した時、私はたまたま第一便のCAに選ばれました。ホノルル空港に着いたら、整備士さんも含め、先輩たちがみんな泣いていたんです。

私はそこではじめて、この路線が開通するためにどれほどの苦労があったかを知りました。

ですから、天草エアラインの方がこの『島のエアライン』を読んだら、非常に勇気づけられるだろうなと思うんです。

後輩たちに語り継がれる、地元の方にもずっと読んでもらえる一冊になると思います。私も元CAとして、黒木さんに感謝したいです。

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