どの企業にも起こりうる不祥事にどう備えるか
2018年07月27日 公開 2022年11月02日 更新
経営理念から考える
不祥事を起こした企業の経営理念を調べてみると、往々にして非常に皮肉な事実に直面する。それは、不祥事とはほど遠い高邁な理念や公正、誠実を謳う理念を掲げている企業が多いということである。
理想を掲げるだけで、実践されていない経営理念に何の意味があるのか。経営理念とはそのような価値のないものであろうか。
ここで改めて、経営理念とは何かを整理しておきたい。実は、経営理念には確立された定義はないものの、経営学では簡潔に「経営体を貫く事業の基本的信条や指導原理」のことをいう。
経営者の立場で松下電器産業(現パナソニック)創業者・松下幸之助は、みずからの経営に対する基本の考え方を20項目にまとめた著書『実践経営哲学』(PHP研究所刊)の第一項に「まず経営理念を確立すること」を挙げ、経営理念について「“この会社は何のために存在しているのか。この経営をどういう目的で、またどのようなやり方で行なっていくのか”という点について、しっかりとした基本の考え方をもつということ」と述べている。
多くの会社には社是、社訓、綱領、信条、経営方針、行動指針、企業憲章、クレドといった様々な呼び名の経営理念があるが、最近の研究では、理念の構造には「企業の存在目的」「企業の価値観」「企業の理想・精神・ビジョン」「企業の行動規範」という四つの要素があると論じられている。どの要素が込められているかは、各企業の経営者の経営哲学に依っている。そして経営者が経営理念の表現に工夫を凝らすところに、経営者の起業した志や夢が投影されているといえよう。
経営理念の研究者であった東京大学名誉教授の故・中川敬一郎は、編著書『経営理念』(ダイヤモンド社刊)において、経営理念の意義について次のように記している。
このことからいえるのは、経営理念はやはり社会の通念を超える高い志が表明されているところに意義があるということではなかろうか。
道徳は実利に結びつく
松下幸之助は、昭和4(1929)年に最初の経営理念といえる「綱領」「信条」をこのように制定している。
企業は営利を追う存在ではあるが、まず社会正義に準ずるという姿勢を表明しているのがわかる。
そして、昭和7(1932)年には、次のような産業人の使命を理念として掲げた。
これはもとより容易なことではないため、幸之助はその達成には二百五十年かかると想定し、「250年計画」とした。遠大な計画である。
また、幸之助は倫理に関する点では成文化された経営理念とは別に、日常から「道徳は実利に結びつく」という考えを明示していた。
中川は、経営理念に社会的通念より高度な見解がある時には、理念の力が働くと指摘しているが、これら幸之助の経営理念の観念や時間軸を含めた世界観、また日常表明している志の高さは、それに価するものとはいえないだろうか。社員に対する幸之助の発言をみても、そもそも「不祥事」という言葉を発した記録がない。「経営の基本方針に徹しよう」という訴えに終始している。法律があるから守ろうという意識ではなく、理念の実現を目指そうと考えるほうが、企業の倫理感は高まり、もとより不祥事が起こる余地もない、と考えていたのではないだろうか。