仮想通貨の中心は過去も現在も中国。採掘市場も寡占できるその秘密とは?
2018年08月15日 公開 2018年08月15日 更新
<<2018年5月23日にPHP総研にて開催された連続講座「PHP未来倶楽部」にて『アフター・ビットコイン』の著者である中島真志氏(麗澤大学教授)による講演が行われた。
多くの日本人に伝わっていない世界における仮想通貨の現実を伝え、示唆に富んだその講演の一部を抜粋し紹介する>>
2017年まで全取引量の90%が人民元で取引されていたビットコイン
ビットコインは夢の通貨か、邪悪な通貨か。この議論において見逃せない中国でのビットコイン事情があります。
現在、日本におけるビットコイン取引量は、全取引量の30%から40%と、世界ナンバーワンのシェアを誇っています。
しかし、ほんの1年前まで、全取引量の90%以上が中国元建てで買われていた、という実態をご存知でしょうか。
中国のオーケーコイン、フォビ、BTCチャイナという3つの取引所をあわせるだけで93%。まさに「爆買い」でした。
日本では、ビットコインというと「欧米で取引されている、新しいもの」というイメージが根強いのですが、ビットコインの中心地は中国だったのです。
どうして中国人がこれほどビットコインを買っていたのでしょう。
きっかけは2015年8月、人民元が切り下げられたことです。人民元の先安観が生じ、富裕層が人民元をドルに移そうとしました。
政府はこれを規制し、海外への資本流出を食い止めようとしました。そこで富裕層が目をつけたのがビットコインです。
人民元をビットコインに替えておけば、後でいくらでも米ドルに替えることができます。つまり中国では、資本規制をかいくぐる手段としてビットコインが買われたのです。
規制を逃れるための脱法行為として、全取引量の93%ものビットコインが使われていた。この事実は、通貨のありかたとしていかがなものかと思わざるをえません。
この事態に気がついた中国当局は、2017年秋、3つの取引所に閉鎖するという強行措置を取りました。
そのため現在、中国本土でビットコイン取引ができなくなっています。そのかわり、ビットコイン規制が比較的ゆるい香港に資金が流れているとも噂されています。
今なおビットコインの「マイニング」を牛耳る中国
しかし、取引が規制されても、中国とビットコインの関わりが途絶えたわけでありません。中国はいまだ「マイニング」の中心地として、大きな存在感を放っています。
表向きは取引所でビットコインを購入できなくても、そのかわりに、マイニング(採掘)によって手に入れる方法があります。
マイニングとは、コンピュータによって複雑な処理を行い、その対価としてビットコインを受け取る方式のこと。
ビットコインが誕生した初期は、自宅にあるようなパソコンでのマイニングが可能でしたが、現在は、マイニングファームと呼ばれる会社組織が専用のコンピュータを開発、それを体育館のように広い場所に並べて24時間365日稼働させているのが実情です。
マイニングファームの世界シェアを見ると、上位13社が全体の8割を占めるという寡占状態。そのうちの7割を、中国の10社が占めているのです。
中国でこれほどマイニングが盛んな理由は、圧倒的な電気代の安さにあります。その値段は先進国の7分の1とも言われています。
前述の通り、マイニングにはコンピュータを24時間365日稼働させる必要があるため、電気代が安いほどに有利。先進国では到底中国に太刀打ちできません。
結果的に中国人は、新しく採掘されるビットコインの7割を牛耳っていることになります。これを海外に輸出し、外貨を輸入することで、取引所が閉鎖されたあとも、ビットコインによって利益を得ています。
実際にどんな場所にマイニングファームがあるかというと、電気代のみならず土地代も安い、四川省や内モンゴル自治区、チベット自治州などの山の奥です。
施設は、専用のマイニング機器が並んだ何棟もの建物と発電所などからなります。コンピュータのデータセンターがそうであるようにマイニング中は大変な熱が生じるため、涼しい地域に建てられているのも特徴です。
1つのマイニングファームだけで6棟も7棟も建物が並んでおり、大変な規模です。
最近、日本でも大手企業が3社ほどマイニングに参入すると発表していますが、中国の状況を見ると「大丈夫かな?」と思います。彼らに対抗するためには、相当なことをしないとならないでしょう。
ビットコイン取引所を閉鎖させた中国当局は、マイニングファームに対しても、産業用の安価な電力の供給をストップさせるよう通達を出すなど、じわじわと締め付けを行っています。
しかし、マイニング自体を禁止することはできません。誰がどこでやっているのか、確かな情報をつかめないからです
そんな理由から、ビットコイン市場における中国の存在感はいまだ健在です。少なくとも過去2年間は、「中国人による、中国人のためのビットコイン」であったといえます。