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大学中退、離婚、シングルマザー…離島の漁船団を率いることになった理由

2018年09月13日 公開

坪内知佳(萩大島船団丸)

坪内千佳(萩大島船団丸)

<<山口県萩市の離島、大島。ここに、全国から熱視線を集める漁船団"萩大島船団丸"はある。漁業の世界に革命を起こしたこの船団を率いる坪内知佳は、荒くれ者揃いのこの世界へ弱冠24歳で飛び込み、苦心の末、メディアも注目する漁船団に成長させた。

坪内知佳の著書『荒くれ漁師をたばねる力 ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命を起こした話』(朝日新聞出版刊)より、その苦闘の足跡を紹介する。>>

 

24歳のシングルマザー、荒くれ漁師と殴り合い

2010年12月、私は山口県萩市の古ぼけた四畳半にいた。

狭苦しい塗り壁の部屋にあるのは、生活必需品のほかにはパソコンとプリンター1台だけ。私は食い入るようにパソコンの画面を見つめタイプしていた。隣には3歳になる子どもがいる。

初めて萩の町を見たのは、私が大学1年生のときだった。山口宇部空港から日本海側に抜ける国道は中国山地を貫いて、山また山の中を走り続けて1時間あまり、視界は急にふわっと開ける。

眼下には淡いグレーの市街地、その向こうにキラキラ光る日本海が広がって見えた。町の上にはどこまでも続く青い空がある。

(この町には長く暮らすことになるかも)

そんな予感がしたのを、いまでもはっきり思い出す。

大学を中退し萩で結婚。専業主婦となった。そして離婚を経て4年後、私はシングルマザーになっていた。

家賃2万3000円、冬には凍って水が出なくなるようなこの狭い部屋で、幼い子どもと2人きりの暮らしだった。

大学中退、離婚、シングルマザー……。
傍から見たら、こんな私は絶望的な状況に見えるかもしれない。

しかし、このときの私は、これから切り開いていく未来への野望で満ち満ちていた。

私が夢中になってパソコンで作成していたのは「総合化事業計画書」と銘打った一つの書類である。

当時24歳だった私は、沖に浮かぶ小さな島の漁師たちとともに、大きな革命を起こそうとしていた。

「えーい、もういい。小娘は黙っとけ。わしらはお前につきあってれんけ、もうやめるぞ」

そう言うと、漁師を率いる船団長の長岡秀洋がいきなり立ち上がって、その場から出ていこうとした。思わず、

「ちょっと、待てや」

彼が着ていたウインドブレーカーを思い切り引っ張ると、ビリッ!と派手な音。ウインドブレーカーはちぎれていた。

次の瞬間、

「ふざけんな‼」

船団長のこぶしが私のほうに飛んできたのである。彼なりに手加減をしてくれたのだろうが、私はそうはいかない。

「やったな!」

負けじと船団長を殴り返そうとすると、彼のメガネがスコーンと飛んで地面に落ち、大きく曲がった。

船団長はその場でこぶしを握りしめ、ぶるぶる震えながら仁王立ちになっている。

鬼の形相で立ちつくす大の男。でも顔からはメガネがなくなり、ウインドブレーカーは破けて、はたはた風にあおられている。

その姿があまりに可愛げたっぷりでおかしかったので、怒りもどこかに吹き飛んでしまった。

「プッ」と笑いだしている私と、憮然とする船団長。

「とりあえず新しいウインドブレーカーとメガネ、買ってあげるけぇ。いまから買いに行こうや」

そう言って猛獣をなだめるように静かに近づくと、彼も一気に緊張がとけたのか、顔がゆるんで、

「……おおう」

と子どものように口をとんがらせて、うなずいた。

口べたで気性が荒いと思われがちな漁師たちだが、実は、根は優しくまっすぐな心の持ち主だ。

彼らとは数えきれないほど喧嘩をし、ときにはとっくみ合いもした。

けれども最終的に仲直りできる理由はただ一つ。

私と彼らが、“ある夢”を共有しているからだ。

島の未来のために、日本の水産業のために、地方創生のために、どんな困難があっても立ち向かってみせる。その純粋な思いが私と漁師たちを一つにしている。

自然の声を聞く仕事に原点回帰したい >

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