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妻サッチー逝去から1年 野村克也氏が語る「残された夫のひとり暮らし」

野村克也(野球評論家)

2018年12月07日 公開 2020年02月14日 更新

【野村家のルール4】健康のために我慢はするな

健康ほど大事で尊いものはない。とくに妻を亡くしてからはなおさらそう思う。高齢になってからのいちばんの財産は健康だ。だから、健康診断も定期的に受けるようになったし、いまは少しでも異常を感じたら病院に行くようにしている。

我慢をしないという考え方は、サッチーも同じだった。彼女が言うには、そう思うようになったきっかけは、病気をしてニューヨークで手術を受けたことだったらしい。幸い、執刀医が名医で手術は成功したのだが、その医師が言ったそうだ。

「人間の身体の原点は五臓六腑。五臓六腑は、『いま身体がこれを食べたいと要求している』という指令を脳に発する。何も食べたくないときは『食べるな』と指令を出す。だから、いつも五臓六腑と仲良くして、五臓六腑が脳に発する指令に従いなさい」

そして、手術のすぐあとに彼女が「コーヒーが飲みたい」と言うと、許可してくれたのだという。それどころか、「タバコとコーヒーも死ぬまで続けなさい」と薦めたそうだ。「喫煙によって生じる害で病気になる確率より、無理して禁煙することによるストレスで病気になる確率のほうがはるかに高い」からだ。以来、彼女は先生の言うことを忠実に守っていた。

だからサッチーは、私に対しても「これは健康にいいから食べなさい」とは言っても、「身体に悪いからダメ」とは言わなかった。

「健康によいか悪いかは、身体が決めるもの」

そう考えていた。

「女を食べたくなったらどうするの?」

私が冗談で訊ねると、こう言った。

「食えるもんなら食ってみなさい。ただし、食あたりしないようにね」

逆に言えば、食欲がなくなったり、食が細くなったりしたときは、注意信号なのだ。私の場合、食欲と睡眠が健康のバロメーターといえる。
 

「男は弱い」と言いつつ持ちこたえられているのは、好きな仕事があるから

サッチーの口ぐせは「死ぬまで働け」だったと先ほど述べた。沙知代の死に大きなショックを受けながらも、それでもなんとか持ちこたえられたのはやはり、やるべき仕事があったからだった。

サッチーが亡くなったとき、テレビ出演や取材などのスケジュール管理をまかせている事務所から「しばらく仕事はキャンセルしましょうか?」という申し出があった。

でも、私は仕事を続けた。亡くなって数日はキャンセルさせてもらったが、その後は予定通り仕事をこなした。その後も積極的に依頼を受けてもらっている。

これはもちろん、迷惑をかけたくないという気持ちや責任感からだったが、仕事に没頭しているときは妻のいない寂しさを忘れられるという理由も大きかった。

ありがたいことに、いまも毎日のように仕事がある。テレビ出演や雑誌の取材など、毎日スケジュールがつまっている。「たまには休みをくれ」とマネージャーに言いたいくらいだが、おかげで「男は弱い」と言いながらもなんとか持ちこたえられているのも事実なのだろう。

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