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生き方

父、35歳、末期がん。2歳の息子からの贈り物

幡野広志(写真家)

2018年12月21日 公開 2019年02月15日 更新

息子と一緒に、「初めて」が増えていく毎日が、すごくうれしい。

幡野広志と息子の成長

僕は体調が悪い日もあるけれど、夜眠る前に不安を感じることもない。
今まで以上に積極的にウェブなどで発信するようになり、いろいろな出会いがあって、知らないことを知る機会が増えた。

自分の知識が増えることもうれしいし、経験できるのがうれしいし、面白い人に会えるのがうれしい。

それらをふまえて考えて、これまでわからなかったことがわかるのが、うれしい。

息子がこれまでできなかったことができるということも、すごくうれしい。

息子が1人でブランコに乗れるようになったのが、うれしい。ゴロンと落下してけがをするのが怖いので後ろで背中を支えていたけど、「お父さんもとなりに座れ」と息子に促されて座りながら、ドキドキするのがうれしい。

2歳の誕生日、バームクーヘンにさしたロウソクを、息子が1本ずつ吹き消した。全部消せるとうれしそうで、僕も妻もうれしかった。去年は僕が代理で吹き消していたけれど、来年は一気に吹き消しているかもしれない。

小さな小さな成長だけど、何よりもそれがうれしい。
だから僕は、幸せなのだ。
 

本当は、もっと君の成長を楽しみたかった。それでも僕は、幸せだ。

病気も子育ても、幸せのハードルを下げてくれる。
痛みを感じず眠れることが幸せなんて、元気なころは考えなかった。靴下が履けただけで幸せを感じられるなんて、子どもを持たなかったらありえなかった。

だから僕は、幸せなのだ。人生の夢は、果たせている。

僕は「ガンで死ぬ」とあきらめたわけではない。
僕はガンで死ぬことを、理解して受け入れた。

ちょっと早すぎる気はするけれど、死を目の前にしても幸せでいられる。
わからないことを知るのが好きだから、死ぬのは楽しみでもある。

息子はあと16年7カ月で高校を卒業し、あと13年7カ月で中学校を卒業し、あと10年7カ月で小学校を卒業し、あと4年7カ月で保育園を卒園する。

僕はどこまで息子の成長を、見ていることができるのだろう?
僕は好奇心が強く、知らないことを知りたいという欲求が強い。

自分の命が惜しいというよりも、これから息子に起きる出来事を一緒に楽しみたかった。
社会がどう変化して行くかを、知ることができないことも残念だ。

だけどそれは当たり前のことで、死なない人は1人もいない。
徳川家康だって、今の日本を知ることはできない。

知らないことを知るというのは、生きている人間の特権だ。
僕は、生きている限り、新しいことを知るだろう。

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