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社会

通信障害どころではない! クリントン元大統領が告発する"アメリカの脆弱なセキュリティ"

山口晶(早川書房)

2018年12月14日 公開 2023年01月12日 更新

通信障害どころではないサイバーテロの恐ろしさ

だが、クリントンが想定しているサイバーテロは単なる情報流出に留まるわけではない。『大統領失踪』のなかで可能性が検証されているのは、国家機能の停止を目論むような破壊的サイバーテロだ。

具体的には、アメリカのインターネット全体をダウンさせるようなウイルスが発動してしまった際に社会にどのような被害があるのかが、生々しく描写されている。

クリントンはそもそもサイバーセキュリティの研究や実践に予算をつける最初の大統領令を出した人物である。小説の執筆にあたっては大統領時代からの人脈を駆使してリサーチを行ったそうで、小説に書いたようなテロはすべて実現可能だと請け合っている。悪い意味での大統領お墨付きなのだ。

長期的にインターネットが使用不可になった場合の被害の様子を同書から引用してみよう。

「エレベーターが止まる。それから、食料品店のレジのスキャナー。電車とバスの運行。テレビ。電話。ラジオ。交通信号。クレジットカードのスキャナー。家庭用警報システム。

電力関係もひどい被害を受ける。場合によっては暖房設備も。そして水。清潔な水がたちまち不足する。そうなると大規模な健康被害が起こる。病人の面倒をだれが見る? 病院だな。病院には必要なものがそろってるだろうか。最近の手術は高度にコンピューター化されてる。それに、患者の医療記録にオンラインでアクセスできない」

「飛行機は飛ばない。電車だって、ほとんどの地域で運行休止になる。車も、二〇一〇年ごろからあとに製造されたものは影響を受ける」

「そして金融市場。いまの証券取引所には立会場がない。何もかも電子化されている。アメリカの取引所を通した売買はすべて停止する」

「この国の経済はきしみをあげて止まる。インターネットに過度に依存する産業は、どれも生き残る手立てを持たない。それ以外の産業も深刻なダメージを受ける。こうした事態がかならずもたらすのは、大量の失業者、与信枠の大幅な縮小、一九三〇年代の恐慌なんかただのしゃっくりに思えるような大不況だ」

「そして、パニックが起こる。大パニックだよ。銀行への殺到。食料品店からの略奪。暴動。大規模犯罪。疫病の大流行。うわべの社会秩序はすっかり剥がれ落ちる」

「軍隊や国防機能がどうなるかをまだひとつも言ってなかったな。テロリストを追跡する能力や偵察機能はどうなるか。高性能の空軍機は飛ばない。ミサイルを発射できるか? できない。レーダーとソナーは? 軍のハイテク通信機能は? 使えない。

アメリカ合衆国は、あらゆる攻撃に対してかつてないほど無防備になる。この国の防衛力が十九世紀レベルになっても、敵対する諸国には二十一世紀の軍備がある」(以上すべて越前敏弥・久野郁子訳。一部省略あり)

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