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宗教統制を強化する中国 それでもローマ法王とバチカンが見せる自信

2019年01月10日 公開

徳安茂(元外交官、在バチカン前公使)

中国の"官製カトリック教会"とバチカンの大きな溝

近代中国とキリスト教の関係は、中華人民共和国成立以前に遡る。欧州列強による清帝国の植民地化の過程で生じたアヘン戦争、太平天国の乱、義和団事件などは中国では負の歴史と位置づけられていることはいうまでもない。

たとえ間接的にではあれ、キリスト教がこうした歴史にかかわっており、大きな混乱や災禍を中国社会にもたらしたという事実も否定できない。

そのような背景もあってか、中国政府は共産党政権樹立後、キリスト教を国家の統制下に置くべく「中国天主教愛国会」という名の、いわば官製のカトリック教団をつくりだしている。

カトリックの司教叙任権をバチカンの権威から切り離して、「愛国教会」所属の司教は中国政府が任命できるようにし、実質的に政府の管理下に置いたのである。

これは従来のキリスト教会とは別物と考えてよいであろう。その結果として、今日までバチカンとは外交関係が断絶されたままとなっている。

中国における従来のカトリック信者たちは、別途「地下教会」を組織し、共産党指導部の厳しい監視と圧力のもとに置かれながらも、バチカンとの関係を保って活動を続けている。この司教叙任権問題が解決されるまでは、中国とバチカンの関係正常化は進まないものと考えてよいだろう。

叙任権の不可侵性は、バチカンの存立基盤にかかわる重大な問題をはらんでいる。

叙任権とは、キリスト教会における司教や修道院長などの責任ある聖職者を任命する権限であるが、中世欧州においては、封建領主がこの叙任権を握り、結果として聖職売買や高位聖職者の堕落を招く一因ともなっていた。

バチカンには、とくに中世において、欧州各地の封建領主とのあいだでこの叙任権をめぐり、血で血を洗う熾烈な抗争を繰り返してきた歴史がある。バチカンの叙任権の不可侵性を中国が認めないかぎり、両者の歩み寄りは考えにくい。
 

カトリック信者が増え続ける中国

その中国では、経済発展に伴う社会の流動化とともに、宗教統制のタガも緩くなる傾向が続いてきた。

ところが近年、中国政府の中枢にとって、宗教活動の自由を認める副作用として、汚職の追及や反政府活動が強まる懸念が急速に頭をもたげてきたのである。これがさらに社会不安を助長するとの恐怖につながり、最近では逆に、宗教統制を強める動きが続いている。

プロテスタントは、聖書を媒介とした個々人の宗教活動が中心となる。しかしカトリック教徒の場合は、バチカンの指導下で統合された組織的活動を行なうことから、中国政府にとってはよけいに脅威度が高いといわれている。

キリスト教徒と民主化の相関関係については、韓国の例がある。韓国での民主化促進の過程では、キリスト教徒が宗教活動の自由化を求めて大きな役割を果たしたといわれている。私が知っている駐バチカン韓国大使は、民主化運動において果たしたカトリックの力を信じる者の一人であった。

韓国では、1987年に憲法が改正され、国民直接選挙による大統領選挙が実現し、それまでの実質的な軍政に終止符が打たれた。

その民主化運動の過程では、カトリック信者も教会を中心に熱心かつ粘り強い活動を展開した。政府の弾圧により、投獄されたり職を失ったりしたカトリック信者もかなりの数に達したという。

この話を踏まえれば、現在の中国政府指導部が時代に逆行するようなかたちで宗教統制を厳しくしている理由もわかる。

しかし、その中国でもキリスト教徒の数は増え続けており、カトリックだけでもいまでは1000万人以上の信者がいるといわれている。2000万人という数字すら耳にする。

中国政府もこれを抑え込むには、もはや宗教統制強化の一本槍では立ち行かなくなる日がくるのは明らかだと認識していることだろう。

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