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年金で最もトクする"支給開始の年齢" 調べてわかった「損益分岐点」

荻原博子(経済ジャーナリスト)

2019年01月31日 公開 2023年09月12日 更新

損得の分かれ目はこの年齢

それでは年金受給開始を繰り下げる場合、何歳まで生きれば得になるのか。実際に試算してみましょう。

たとえばAさんの年金は、原則どおり65歳からの受給で月額10万円とします。年金受給年齢を70歳からに繰り下げると、10万円×12カ月×5年分=600万円がもらえない計算になります。

一方、70歳以降は先ほど計算したとおり、毎月14万2000円を生涯、受け取ることができます。

65歳から70歳のあいだもらえなかった年金600万円を受給上乗せ分によって回収するには、600万円÷4万2000円=11.9年(142.9カ月)がかかります。

つまり70歳からの受給に繰り下げた場合、Aさんは81.9歳よりも長く生きると得であり、早く亡くなると損になる、ということです。

この損得の分かれ目、すなわち「損益分岐点」をよく考える必要があります。「自分は長生きできそうだ」と思うのであれば、年金はなるべく遅い受給のほうが支給額が増えます。70歳からもらうと、じつに42%も年金が増える計算です。

現在、日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳(厚生労働省調べ)。先ほどの損益分岐点とご自身の健康状態に照らして「損益分岐点よりも長生きできる」と思える方は、受給時期の繰り下げを選ぶとよいでしょう。

選択の結果、どう転ぶかわからないのは人生の常であり、運命と割り切るほかないのです。

反対に、受給開始を60歳からに繰り上げた場合は0.5%×12カ月×5年で、65歳から年金をもらいはじめる場合より30%、支給額が減ります。65歳で10万円受け取れる人が、60歳でもらいはじめると月7万円に減ってしまい、損益分岐点は77歳となります。

もし76歳までに寿命が尽きれば、60歳で受給を開始したほうがよいことになります。
 

受給開始が引き上げられたら?

さらにいま政府が検討しているのが「受給開始年齢を70歳以上に引き上げられるか」です。

もちろん、受け取る側としてはさらに未受給期間が長くなり、上乗せ分で得するためにはより長生きしなければなりません。

ある意味では自分の寿命をめぐる「賭け」のようなものですから、メリットである上乗せ率をそうとう引き上げなければ、受給年齢の繰り下げを選ぶ人は少ないでしょう。

政府も70歳を超えた場合は上乗せ率を引き上げる方針のようですが、現状では何も決まっていません。ここでは、仮に受給開始の上限を75歳までとして、上乗せ率を引き上げた場合を考えてみましょう。

65歳から70歳は現行どおり上乗せ率0.7%で、70歳から75歳の上乗せ率を0.8%に引き上げる、と仮定します。

受給を75歳からに繰り下げた場合、年金受け取り額は90%アップ(65歳から70歳は、先ほど計算した42%アップ。70歳から75歳は0.8%×12カ月×5年=48%アップ)となります。

先ほどのAさんの場合は、65歳から年金を受け取ると月額10万円でしたが、75歳からを選択すると月額19万円となる計算です。

このケースの損益分岐点を計算すると、86.1歳。この年齢を超えて長生きすると得、ということになります。

とはいうものの、あまり現実味は感じないシミュレーションです。とくに男性で、86.1歳より長生きする自信のある方はどれだけいるでしょうか。

もし仮に70歳から75歳までの上乗せ率を0.9%に設定したとしても、損益分岐点は85.4歳。迷わず75歳からの受給を選択する方はやはり少ないでしょう。

先ほど平均寿命のお話をしましたが、高齢でも健康に問題がなく、日常生活を不自由なく過ごせる期間を「健康寿命」といいます。日本の場合は男性71・19歳、女性74.21歳です(2013年、厚生労働省調べ)。

つまり、いままで受給年齢の仮定条件としていた75歳という受給開始年齢は男女とも健康寿命を終えてから、という話になる。なおさら現実味に乏しい、といわざるをえません。

また、医療の世界には「75歳の壁」という言葉があります。75歳で後期高齢者の仲間入りをすると筋肉量がガクンと落ち、人によっては判断力や思考力も一気に衰えます。

交際範囲も狭くなりがちで、年金以外の収入もありません。受給開始年齢の引き上げは、幸せな老後に繋がらない可能性が高い。

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