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医者の家族は「抗がん剤」治療を受けるのか? 医師が明かした実際

長尾和宏(医学博士、医療法人裕和会理事長)

2019年04月15日 公開 2023年04月19日 更新

 

私が抗がん剤を大嫌いになったきっかけ

私自身はというと、医者になって最初の2年間、白血病の患者さんをたくさん診てきました。

医者になってすぐに抗がん剤治療を行いました。でも、そのときのつらい経験から抗がん剤のことを大嫌いになってしまいました。35年前の話です。

私が最初に勤めた病院は、大学病院に緊急入院できない患者さんが送られてくるような救急病院で、白血病の患者さんもたびたび入院されてきました。

医者1年目の大みそか、歯茎からの出血が止まらないとのことで、近くの医療機関を受診して白血病を疑われた患者さんが紹介されてきました。骨髄検査ですぐに白血病と診断されました。顔色は真っ青。口の中には点状の出血がたくさんありました。

しかも血小板は5000しかありません。血小板は20~30万あるのが通常ですから、すぐに血小板の輸血が必要です。しかし正月なので血液製剤が足りないため、三が日なのに家族を連れて血液センターに採血に行きました。

そうやって集めたものを輸血したら、お正月明けにはなんとか全身状態が安定し、そこから抗がん剤治療が始まりました。

白血病は抗がん剤が効きやすいがんとして知られています。先輩の専門医の指示に従いながら、点滴と内服を組み合わせて抗がん剤を投与するという、当時の標準治療に則った治療を行いました。

しかし、当時の私と同い年だった、その若い患者さんは、徐々に食事ができなくなり、衰弱していきました。栄養補給の点滴も行いましたが、効果はほとんど見られませんでした。

それでも抗がん剤治療を続けましたが、2、3週間後にはさらに貧血になり、頭の毛が抜け落ち、さらに衰弱していきました。骨髄検査で抗がん剤の効果を評価しても、あまり効いていないのは明らかでした。

結局、その患者さんは一度も落ち着いた病状を得ることなく、入院から3カ月後の早朝、亡くなられました。

亡くなる3時間前に大量の吐血をされ、焦って一生懸命に輸血をしましたが、それをしているうちに呼吸が止まり、気づけば思わず馬乗りになって心臓マッサージをしたこと、そしてご両親に死亡宣告をしながらも涙が止まらなかったこと、今でもよく覚えています。

抗がん剤というものがどんなものであるのかを、医師になって初めて、その患者さんに教えていただきました。

この患者さん以外にも、とても大変な抗がん剤治療をたくさん見てきました。いえ、「見てきました」というのはあまりに他人事すぎます。私自身が行ってきました。その頃の経験が私の医者としての原点であり、ずっと重くのしかかっています。

だから私の中では「抗がん剤は患者さんを苦しめるもの」という思いがどうしても抜けませんでした。一時期、抗がん剤が大嫌いになったのは、そのためです。

でも、それから20年、30年が経って、抗がん剤の治療成績は随分と変わりました。

ここ数年の間に、いい薬がどんどん開発されています。私自身も、「もしもがんになって、抗がん剤が効くタイプであれば受けてみようかな」と思うようになりました。

抗がん剤は大嫌いと公言していた私が、心変わりしつつあります。それほど、今、抗がん剤医療が大きく変わる転換期にあると思います。

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