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“無差別殺人犯”と“匿名ネットユーザー”に共通する「他人への攻撃欲」

片田珠美(精神科医)

2019年05月29日 公開 2024年12月16日 更新

 

もっとも攻撃欲が強い、無差別殺人の言い訳

他責的な人間が引き起こす最悪の結末が、無差別殺人事件である。近年日本で発生した無差別殺人事件を振り返ってみても、犯人の他責的な動機を垣間見ることができる。

秋葉原殺傷事件、附属池田小事件、土浦連続殺傷事件など、無差別大量殺人の犯人の多くは自殺願望を抱いている。

そのため自殺願望が事件につながっているのだと思う方もいるかもしれないが、そうではない。自殺願望を抱いている人ならそれこそ何十万人といそうなものだが、こうした無差別殺人事件を起こす人間はごく少数だ。

それよりも彼らを行動に駆り立てるのは、先ほどから述べている他責的傾向である。自分の仕事や私生活がうまくいっていないことを、自分の責任と考えるのではなく、親が悪い、会社が悪い、社会が悪いと、他者に責任転嫁し、復讐をしようと考える。

彼らはもともと抱いていた自殺願望を、自分に向けるのではなく、他人への攻撃衝動にすり替え、社会への復讐のために無差別大量殺人を起こしてしまったのだ。

こうした事件の犯人たちも、自己愛的万能感と現実とのギャップが大きい。先ほどのモンスターペアレントどころではない。自分はすごい人間だ。もっとやれる。そんな万能感を抱いているものの、現実の自分があまりに惨めで、それを認めたくないがために他責的な思考をし、強烈な不満を持つようになるのである。

このように理想の自分と現実の自分との間のギャップに苦しんでいるのは、彼らだけではない。誰しも子供のときに経験することなのだ。ただし、多くの人は思春期のうちから少しずつ現実を受け入れ、何かを「断念」しながら大人になっていく。

大人になってもこのギャップに苦しむのは、自分が万能ではないという現実を直視できないからである。万能感と現実のギャップが大きければ大きいほど、他者への不満が募る。

そのうえ、無差別殺人事件へと至るもう一つのステップとして、彼らは「投影」を行なっていた。投影とは、先述したように自分の中にある「内なる悪」を、外に放り出して他者に転嫁しようとする心理メカニズムである。彼らにとって他者は誰でもいい。

つまり、ターゲットを特定しなくても、自分の内なる悪をぶつけられる相手を攻撃できれば、それで目的を果たせる。だから無差別殺人事件を起こしてしまうのだ。

彼らが望んでいるのは、社会の無価値化である。社会の価値そのものがなくなれば、相対的に自分の価値が高まり、理想と現実のギャップも埋まる。そう考えているのだが、実際には万能感を捨てきれない幼稚な人間にほかならないのである。

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