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欧米で議論沸騰の「2045年問題」 コンピュータと人類の主従関係が逆転する

冨島佑允(とみしまゆうすけ)

2019年06月06日 公開 2019年06月19日 更新

欧米で議論沸騰の「2045年問題」 コンピュータと人類の主従関係が逆転する

<<AIが人間の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)の到来について、真剣に検討されている昨今。機械が人間の頭脳を超えられるのかが話題の的だが、テスラ社の起業家イーロン・マスクや気鋭の哲学者ニック・ボストロムは更にその先の世界を見据えている。

彼らが提唱するのは、シンギュラリティの後にはシミュレーション社会がやってくるということだ。AIが人間の頭脳の越えた先には、機械がコンピューター上に人間社会を生み出し、シミュレーション上で社会実験を行うようになるだろうと警鐘を鳴らす。

世界のAI研究者が日夜しのぎを削り、その覇権を握ろうとしている技術競争の先にあるものは何か?京都大学物理学専攻で、最先端の物理学や科学理論に詳しい冨島佑允氏が解き明かす。>>

※本稿は冨島佑允著『この世界は誰が創造したのか: シミュレーション仮説入門』(河出書房新社刊)より一部抜粋・編集したものです。
 

2045年に何が起こるのか

日本での認知度はまだ限定的だけど、欧米で活発に議論されているテーマの一つであるシンギュラリティ。

これは、自分自身を改良する能力を持つ人工知能の出現により、人工知能の性能が指数関数的に高まっていき、人間の代わりに世界の支配者となる時点のことを指しています。

もともと「シンギュライティ」という言葉は数学から来ていて、他とは異なる特別な点(特異点)のことを指します。人類の歴史上いまだかつてない瞬間が、もうそこまで来ているというのです。

シンギュライティの到来はいつなのか?未来学者であり、「シンギュラリティ」という言葉の発明者でもあるレイ・カーツワイルは、2045年という説を唱えています。別名「2045年問題」とも呼ばれます。あと四半世紀もすれば、そのような特別な時代に突入するというのです。

シンギュライティの時代に突入すれば、進歩の主役は人類からAIへ移ります。人間より優れたAIが産業の色々な場面で活躍し、人類がだんだん端に追いやられていくようになるのです。

このときにAIの進歩を支えるのは、オックスフォード大学の哲学教授ニック・ボストロムが言うところの「再帰的自己改良プログラム」です。つまりは、トライ&エラーを通じて学習し、自分で自分のソースコードを改善していくAIの登場により、シンギュラリティがもたらされると考えられています。

 

カギは収穫加速の法則

カーツワイルは、何を根拠にシンギュライティを唱えているのでしょうか?彼が拠り所としているのは、「収穫加速の法則」です。彼は人類の歴史を検証し、文明の進歩が収穫加速の法則に従っていることを見出しました。

この法則によれば、文明の進歩は指数関数に従います。指数関数とは、最初はゆっくり変化するものの、途中から勢いが増して急激に増加していく数学的な式のことを指します。

文明の進歩も同様に、原始時代から中世頃までは比較的ゆっくりと発展してきましたが、産業革命以降は進歩が急激に加速しています。一方で、人間の脳は生物学的進化の法則に従って非常にゆっくりとしか変わっていきません。結果として、人間は人工知能に追い抜かれてしまうのです。

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文明は急速に進歩する?!

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