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1993年の本が予見していた“働き方改革” 昭和的「会社と社員の関係」の終焉

大沢武志(元リクルート専務取締役)

2019年06月07日 公開 2022年02月21日 更新

心理学的経営(大沢武志)

<<1993年に刊行されたある本が、突如として注目を集めている。そのタイトルは『心理学的経営』。

長らく入手が難しい状況にあったこの本は、2019年5月30日にプリント・オン・デマンド版で復刊するやいなや、Amazonの書籍ランキングを急上昇。発売当日時点では並み居る新刊を押しのけ7位にまで達した。

著者の大沢武志はリクルートの創業者である江副浩正氏のもとで専務取締役も務めるなど30年にわたり活躍。何より今でも企業人事部にとっては無くてはならない「適性検査SPI」の開発者である。

『心理学的経営』で驚かされるのは、1993年の刊行時にすでに、今の時代の個人と企業の関係を正確に予見しており、その展望に基づいた人材マネジメント論を展開していることだ。結果、同書は知る人ぞ知る名著として、入手希望者が後を立たなかった。

ここでは、同書より「職場における個性化」を語った一説を紹介する。>>

※本稿は大沢武志著『心理学的経営』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。

 

組織の中での「個」を優先させる考え方が浸透する

わが国の企業の世界にも、成長至上主義の影は薄れ、「ゆとり」のある働き方に価値の重心が移りつつある。

会社人間としての自分、仕事に生きる自分が全てで、それを失うと何も残るものがない企業戦士は全く過去のものになっているかというと、そこまで何もかも変貌をとげたわけではないが、全体の生活時間に占める働く時間の割合がどんどん小さくなっていることは事実である。

仕事以外の時間をどう充実させるかという点に人びとの関心が移っていることもたしかで、特に若い世代にとってはゆとり時代の価値観が当然のものとなっている節がある。

その結果、そのライフスタイルが企業のなかにも持ち込まれ、仕事に対する姿勢も組織のなかの人間関係も個を優先させる考え方が従前と比べればかなり浸透しつつあるようだ。

組織における昇進という問題についても、管理職への昇進を唯一のゴールと考える風潮は必ずしも主流ではなくなり、職能の上でも専門職や専任職を積極的に処遇する複線型の人事、あるいは、転勤を好まず勤務地を限定した社員を認める人事制度、契約社員、アルバイター、派遣社員等、勤務の様々な形態がどんどん拡がっている。

こうなってくると、生活のために企業に縛られ、本当の自分をどこかに置き忘れた人間の姿を見出すことなどむしろ困難になるかもしれない。一昔前までは、真の自己実現というテーマは人生後半の課題だったとされる。

生きるためにとにかく無我夢中で働き、事業家として成功をおさめ、一定の冨と社会的地位を得て人生の折り返し点を過ぎた頃、「自分の人生は一体何だったのか」と自問し、ある日突然何かに取り憑かれたように別の人生を歩み出すという「事件」はもう起こりようがないのかもしれない。

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「個性化」は所属する組織との関係を無視できない

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