生まれた当初は合理的だったものの、今は時代にそぐわなくなった慣習やルールを『仕事ごっこ』と呼び、アップデートが必要だと語る沢渡あまね氏。その一例として「もはやイケていない」、むしろデメリットだらけとして挙げられるのが「zipファイル+パスワード別送」(PPAP)です。
情報セキュリティの専門家が集い、この「PPAP」を正しく滅ぼすための議論や活動も起こり始めているのだとか。放置しておくと、“本家”(◯コ太郎)のようにどこまでも(悪い意味で)拡散しかねない残念な慣習。その問題点を物語をまじえながら解説します。
※本稿は『仕事ごっこ』(沢渡あまね著、白井匠イラスト、技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです
「ごめんよ、ぱすわーどを送り忘れていたね」
白ヤギさんは、今日もお手紙を書いています。大好きな黒ヤギさんを、パーティーにおまねきするためです。
こんかいは森のかわいらしいレストランを借りることができました。白ヤギさんは、ワクワクしながら手紙をそうしんしました。
いっぽう、きょうも大いそがしの黒ヤギさん。お出かけしてばかりで、なかなかおうちにもどれません。手紙はいつのまにか、おうちのポストに埋もれてしまっていました。白ヤギさんは待ちぼうけ。きょうも黒ヤギさんからお返事をもらえません。心配になり、黒ヤギさんに電話をかけてみます。
「やあ、黒ヤギさん。ぼくが書いたお手紙、よんでくれたかな?」
「あ、お手紙くれていたの? ずっとおそとにいてね。あとでかくにんするから」
3日がたち、ようやく黒ヤギさんはおうちにかえってきました。おそとはもうまっくらです。
ポストには今日もたくさんのお手紙がとどいています。そのなかに、白ヤギさんからとどいた箱を見つけました。
黒ヤギさんは箱をあけようとします。ところが、どんなにがんばっても箱が開いてくれません。と、こんなメッセージがそえられているではありませんか。
『ぱすわーどを入れてください』
「ええ、ぱすわーどなんて言われても……知らないよ!」
大忙しの黒ヤギさん。つかれはてて、そのまま眠ってしまいました。
「ねえ、白ヤギさん。いったい箱のなかみは何なんだい?」
3日後、黒ヤギさんは思い出したように白ヤギさんにきいてみました。
「森のレストランの地図とメニュー表なんだ。黒ヤギさんが、あらかじめ食べたいものを決めやすいようにと思って。ごめんよ、ぱすわーどを送り忘れていたね」
──それって、わざわざぱすわーどをかけて送る必要あるのかな?
黒ヤギさんは「メェー」と大きなため息をつきました。
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最近、インターネット上で「PPAP」なる言葉を見かけるようになりました。
【P】asswordつきzipファイルを送ります
【P】asswordを送ります
【A】n号化(暗号化)
【P】rotocol
情報セキュリティの専門家が集い、“PPAP”を正しく滅ぼすための議論や活動も起こり始めています。ずばり、“PPAP”もイケていない「仕事ごっこ」な可能性が十分あります。それはなぜでしょうか?
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なぜ、「zipファイル+パスワード別送」がもはやイケていないのか?