<<印刷して配布、とりあえず対面で打ち合わせ、手書き必須、なぜか押印が必要、ひたすらテレアポ、とにかく相見積り、コンペ、スーツ&ネクタイ、ダイバーシティごっこ……
仕事のスピードを遅くし、時間をムダにし、成長機会を奪い、社外の人とのコラボレーションを邪魔し、優秀な人を遠ざける慣習やルール――それが、“仕事ごっこ"。元来の意味は忘れられ、時代とともに陳腐化してしまった仕事がいかに多いか?
業務改善のプロフェッショナルである沢渡あまね氏が上梓した『仕事ごっこ』は、レガシー企業の日常に潜む「仕事ごっこ」とその対策を、「ものがたり」と「解説」の二段構えで紹介している。本稿ではその一節を紹介する。
※本稿は『仕事ごっこ』(沢渡あまね著、白井匠イラスト、技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです
わがままなお殿さま
ある国に、わがままで有名なお殿さまがいました。
自分の言うことが絶対。逆らうものは、打ち首、ごく門、島流し。家来の進言にもいっさい耳をかたむけようとはしません。
きょうは月にいちどの定例会。全国から家来が集まり、年貢をどれだけ集められたか? かんばつやえきびょうなどが起こっていないか? などをお殿さまに報告します。ところが、これがなかなかの家来泣かせ。
「巻物でもってこい!」
わがままなお殿さまは、巻物にこだわります。さらに、巻きかたにも注意がひつよう。ひもの結びかたが気に入らないと、
「無礼であるぞ!」
とたちまち機嫌をそこねます。どんなに立派な内容でも、聞き入れてくれないのです。
家来たちは毎月、巻物を仕立てて、ていねいにひもを結んで……と、そのためだけに1日がかりの仕事をして都にむかいます。ひもを結ぶ職人をやとっている家来もいるとかいないとか。
さらにこのお殿さま、きまぐれな発言も多くて、いつも家来を困らせます。
「気温の変化も知りたいのぅ」
「そなたの地の、をのこと、おなごの数を答えたまえ」
そのため、家来たちはあらかじめ「お殿さまに聞かれそうなこと」を想定し、ねんのための資料をじゅんびしておかなくてはなりません。すぐに答えられないと、お殿さまは怒り出すからです。気の利く家来は、万が一の質問にそなえ、家来のそのまた家来を外にはべらせています。
ところが、その国の栄華も長くは続きません。
あるとき、川むこうのとなりの国から襲撃されます。川むこうの国はとてもスマート。くらべものにならないほどのスピードと情報力で、あっというまにその国を圧します。わがままお殿さまはとらわれの身となり、その国は川むこうの国の属国となりました。
「これで、平和に暮らせる!」
期待に胸をふくらませる家来もいました。ところが、よろこびもつかのま。
「あなたたち、そんなんじゃシゴトまかせられないね」
しごとのやりかたがあまりにも時代遅れで、川むこうの国から使いものにならないと判断されてしまいます。
職にあぶれ、路頭に迷う家来たち。ひとひらの雪が、くもり空から舞い降りて、そっとほおをなでました。
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その資料作成、その会議も「仕事ごっこ」かもしれない!