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社会福祉事業の経営強化へ。生産性向上で社員の幸福度が高まる「合掌苑」

森一成(社会福祉法人合掌苑理事長)

2019年08月27日 公開

 

まずは、「時間当たり採算制」の分母を整える作業から

合掌苑

――合掌苑として、順調に事業を積み重ねてこられたと聞いています。そして森さんが理事長になられた段階で、アメーバ経営を導入されたのですね。

森 そうですね。アメーバ経営は私が理事長になってから始めたもので、丸4年経ちます。介護士を中心にした社会福祉事業に携わる社員の皆さんに、経営感覚を身につけてほしかったからです。そしてその成果は上がってきました。

アメーバ経営導入前の合掌苑でもそうでしたが、介護士は一般的には数字を扱うのが嫌いで、あまり興味も持っていません。自分で伝票1つ書こうともしない。

「自分たちはおむつを替えるのが仕事であって、伝票書きにはバイトの人を使ってよ。事務員の人が全部管理しなさいよ」というのが当たり前の世界なのです。おむつの単価がいくらかも知らないし、入居者などのお客さんから月々いくらいただいているかも知らない。ベッドが1つ空いたら、いったいいくら減収になるのかも意識していないのです。

それでもかつては経営が安定していました。老人ホームの数が不十分で「売り手市場」だったから、放っておいても入居者はどんどん来るし、介護士や職員もたくさんいたから、人手不足に陥ることもなかった。

しかし、市況は大きく変わっています。社会福祉法人だけが独占していた事業だったのが、あらゆる法人が事業を担えるようになり、老人向けの施設がどんどんでき、競争が激しくなっています。

また、人材の確保も大変です。さらにいまは出来高制ですから、ベッドをきちんと回さないと収入が確保できないのです。

――なるほど。その厳しい状況を乗り切るために、4年前に導入したのですね。

森 じつは、ベッドの稼働率について言えば、今から10年以上前から現場に意識させていました。目標の稼働率を掲げて、その稼働率を超えていくよう、営業活動を強化していました。

それについてはきちんとこなせるようになり、稼働率の向上に繋がったのですが、「出て行く方」のお金の管理、つまり経費削減については、十分になされていなかったのです。

そこでアメーバ経営を導入するのですが、いきなり取り組んでも難しいことがわかっていましたので、事前の準備をきちんと行いました。

具体的には、アメーバ経営では「時間当たり採算制」がすべての基本にあります。その際の分母は労働時間で、そもそもの労働時間管理がいいかげんだと、成果の上げようがなくなります。

これに対し、当時の合掌苑では、介護業界の特徴としてサービス残業が多く、また月給制だったので、タイムカードをきちんと打刻しない人もいました。これではアメーバ経営ができません。そこでまずは、タイムカードの打刻をきちんとするところから始めたのです。

さらに、月給をやめて時間給にしました。全員、正職員もそうしたのです。そうすると、打刻しないと給料が貰えなくなるので、みながきちんと対応し、ようやく労働時間の把握が可能になりました。

――アメーバ経営の導入に際し、そのようなインフラ整備が必要だったのですね。一方で、管理会計のシステムを入れるのと同時に「フィロソフィ教育」を施す会社も多々見られますが、合掌苑さんはどうされたのですか?

森 最初にお話した通り、われわれの母体はお寺で、お坊さんである創業者は慈悲の精神の大切さを長年職員に訴え続けていましたから、フィロソフィ的なものの考え方、価値観は社員皆に根付いていたのです。ですから、とくにあえて新たに「フィロソフィ教育」を行うことはしませんでしたね。

われわれの創業者は、施設をつくって、自分たち夫婦の家も持たずに施設の中にずっと住み込み、お年寄りと365日、24時間、生活をともにするという人でした。

その創業者がやっていること、言っていることがイコール「合掌苑理念」なのです。それを肌身に感じてともに働いてきた社員が多くいるので、「フィロソフィ教育」の必要性はなかったんです。

――仏教の慈悲の精神に基づいて、社員の皆さんが常に周りのことを考えて助け合い、仕事の成果を上げていく。そのことの大切さを意識して働いてこられたのですね。

森 長年培ってきた風土の大切さ、ありがたみは、アメーバ経営をやってみて、はっきり認識できたところがあります。数字に現れることで初めてわかったのです。

黒字を確保していくには、部署を超えての話し合いをして理解を深め、お互いの立場を認識して、全体として最適な結論を導き出さねばなりません。そうしないと、それぞれの立場で利害ばかり求め、言い合いになり、物事がまとまりません。

合掌苑では、部署を超えた話し合い、意見交換が、わりとスムーズに進んだのです。それは社員の皆さんの間に考え方の共通の土俵があったからです。それがまさに「合掌苑理念」で「何のためにやっているのか」をつねに意識して、話し合いをすることができました。

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経営感覚が身に付いた介護士は、精神的にも楽になる

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