定年後、急に妻へ接近する夫の悲哀
2019年08月28日 公開 2019年09月02日 更新
定年後の孤独解消を妻に求めると、熟年離婚にまで発展する大ゲンカになることも…。
男は基本、仕事一筋。休日やアフターファイブは、飲みやゴルフや釣りで家にいないことも。そして定年を迎えると、仕事抜きで気軽に会える人がほとんどいない現実に、やっと気づく。なぜなら、会社の看板があったから、周囲は合ってくれたからだ。
つまり、定年を境に、急激に孤独となる。そこで妻に近づく。家庭をほったらかした負い目もあるのだろう。しかし、時は既に遅し。妻は「子育てもアタシに任せっきりで、今さら何よ?」と怒り心頭。しかも夫のいない生活が当たり前になっているから、夫が近づくのはうっとおしい以外の何者でもない。
では、夫は定年後、孤独とどう向き合えばいいのか?
ひとりの老後を応援する団体であるNPO法人「SSSネットーワーク」を立ち上げて運営し、1000人以上の孤独老人を見てきたうえ、自分自身も70歳過ぎた今も独身である松原惇子氏。
ニューヨーク市立クイーンズカレッジ大学院でカウンセリングの修士号を取得し人の心についての造詣も深い松原氏が、著書『孤独こそ最高の老後』の中で、定年夫へアドバイスをしています。本稿ではその一節を紹介します。
※本稿は松原惇子著『孤独こそ最高の老後』(SB新書)より一部抜粋・編集したものです。
夫は定年。しかし家庭に居場所はなかった
「男性は一生、会社に勤めていたほうがいい」と皮肉のひとつでも言いたくなるほど、定年夫はどうしようもない。
おそらく、人生のほとんどを会社という組織の中で過ごしてきたため、思考がロボット化してしまい、人間としての生き方を見失ってきたのではと思われる。
出世コースから外れ、管理職になれなかったサラリーマンは、現役のときから会社以外の道を考えているので、人間関係も幅広く、退職してもさして変わらないかもしれない。
問題は、退職するその最後の日まで会社中心の生活を続けていて、若い女性社員から花束をもらって去る管理職の人。会社が全く関係しない生活へと、定年後から急に切り替えないといけないため、相当の時間を要することになる。
気がつくと、子どもは自分の家庭を持ち、父親には見向きもしない。妻は妻で自分の友達と集まって何やら楽しそうにやっている。「あれ?」「俺の居場所は…?」「誰がこの家族を養ってきたと思ってるんだ??」
すでに、会社という組織の中で威張っていられる自分の居場所はなく、自分の尊厳を満足させてくれる名刺も肩書きもない。昨日までのいきいきした人生、あれは何だったのか。