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元中日ドラゴンズ”仁村兄”が直面した「不条理」…今、笑顔で語る理由

仁村薫(元プロ野球選手),真田幸光(愛知淑徳大学教授)

2019年11月21日 公開 2022年07月08日 更新

元中日ドラゴンズ”仁村兄”が直面した「不条理」…今、笑顔で語る理由

読売ジャイアンツ、中日ドラゴンズでプロ野球選手としてプレーし、その後、解説者や指導者として活躍した仁村薫氏。現在は家業を継ぎ、川越で農業を営んでいる。仁村氏が作るお米は2016年の等級検査で一等米のランクを獲得し、現在は飲食店にも生産米を納品しているという。

そんな仁村氏と、国際金融論の専門家である真田幸光氏は大学生時代から親交がある。学年は一つ違うが、仁村氏は早稲田、真田氏は慶應の野球部に所属し、競い合った仲なのだ。

そうした縁から、真田幸光オンラインサロン「経済新聞が伝えない世界情勢の深相~真田が現代の戦国絵図を読む~」にて、二人の対談が実現した。今回はその対談の一部を紹介する。

※本記事は真田幸光オンラインサロン「経済新聞が伝えない世界情勢の深相~真田が現代の戦国絵図を読む~」内で公開された内容より一部を抜粋・編集したものです。

 

「不条理」だからこそ、野球も農業もおもしろい!

私は、2013年から家業を継いで、川越で農業を営んでいます。農業を始めた当初は、右も左もわからず戸惑うことばかりでしたが、2016年に米の等級検査で一等米のランクを獲得しました。私が作ったお米は飲食店にも納品させてもらっています。

農業で大事なことは、すべて最初の作業からいかに丁寧にやるか、ということです。

たとえば、米作りには中干し(土用干し)という期間があります。植え付けをしてから35~40日経つと、一旦全部の水を出して10~14日間カラッカラッの状態にします。すると「小指割れ」といって、田んぼに小指の太さくらいのひび割れが入ります。

これをすることによって、ひび割れたところから熟成した土壌のガスが抜けていくとともに酸素が入るのです。

また、この中干しをしっかりしたかどうかは、秋の稲刈りのときに大きく影響します。田んぼに重いコンバインが入ったときに、中干しをしっかりした田んぼだとコンバインが沈みません。しっかりとした地面が、お米も入ったコンバインの重さを受け止めてくれるのです。

他にも稲刈りが終わった約1カ月後の最初の耕し(翌年5月の田植えのため、計4回耕す)は丁寧にやらなくてはいけません。これを丁寧にやらないと、後で水が入ったときに凹凸ができて、うまくいかないからです。

農業について、父親から教えられたのは「大自然が相手ということを忘れてはいけない!」「自然を侮るな!!」ということです。

たとえば、丁寧に丁寧にやってきても、ようやく刈り入れ……という段階で台風がきて、刈り入れの旬の時を逸するということがあります。
「未成熟米が少々多くても、もう少し早く刈り入れをしておけば……」と悔やんでも、どうしようもありません。

また、こんなことがありました。ある年、水の出入りがスムーズになると思いU字溝を置いてみました。ところがいざ水を入れてみると、U字溝のわきや下から、なぜか水がチョロチョロ漏れてしまいます。

どうして、こんなことになるんだろう? 不思議に思って調べてみると、犯人はなんとアメリカザリガニでした。ザリガニが穴を掘っているのです。

「なんで、こんな悪さをするんだ」と怒ったところで、どうしようもありません。完璧だと思っても完璧にはいかない。いざ水が流れてきたら思い通りにいかない。農業とは大自然が相手だということを、つくづく痛感しました。

でも、そういう不条理を受け入れる自分もいます。なぜなら、こうした不条理は野球にも通じるところがあるからです。

野球のルールには審判次第という面があります。たとえば、審判によってアウトコースが厳しい、インコースが厳しいということがあります。いくら選手が「ボール!」と叫んでも、審判が右手を上げ「ストライク」と言ったら、それがルールです。

そういう不条理を受け入れるところから始まるスポーツであるということが野球の醍醐味でもあります。これは審判が人間だからこそ、人と人、いかに審判を味方にするかという面白さです。

不条理を心から受け入れる度量――これが私の農業と野球の共通点の一つです。

ですから、農業に取り組むとき、私は「ぼちぼち」という気持ちを大切にしています。田んぼに水を入れられるのは、いつからいつまでと決まっているので、その間には仕上げなければならないけれど、その中であくせくするのはやめよう。

大自然相手に「ばかやろー、こんなときに台風来るんじゃない」と怒っても仕方がない。自然相手だからぼちぼち。

すべてを受け入れながらあくせくしない心構え、人生こんな時もある、こんなこともある、だから人生なんだ……という思い。
そんな気持ちでいるのです。

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「監督だったらどうする?」という視点

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