静かなる天才、ティム・クック…「世界初の1兆ドル企業のCEO」の知られざる実力
2019年09月13日 公開 2023年01月18日 更新
クックがジョブズの右腕となるまで
クックが入社した年に、アップルの収益は劇的に上昇していたが、それでもまだ倒産の危機は脱しておらず、できる限りコストを削減する方法を模索していた。
そして工場の運営には莫大なコストがかかることから、クックはフォックスコンという台湾の企業に製造をアウトソーシングすることを決定した。
この企業は西洋では考えられない規模の巨大工場群を運営しており、レストランや病院なども併設されていることから1つの町のようだった。現在では中国だけで130万人もの労働者をかかえ、12の工場を所有している。
アップルを含め、多くの外国企業が中国に生産拠点を移すのは、人件費の安さからだと言われているが、フォックスコンの成功の鍵は、その柔軟な対応力にある。
常に多くの労働者をかかえているため、24時間体制で工場を稼働させることができ、数万人単位での臨時雇用も可能なのだ。アップルは製品のデザインを発売寸前で変更することがよくあるため、この対応力は大きな魅力だった。
クックはこのアウトソーシングによる業績が認められ、2005年にCOOに昇格し、晴れてジョブズの右腕的存在となった。
スティーブ・ジョブズの後を引き継ぐも、前途多難に
2012年、クックは山ほどの頭痛の種を抱えていた。iPad 3の発表の場で、CEOとして初めてプレゼンを行ったが、その表情は硬く、ジョブズのような人を惹きつけるカリスマ性やプレゼンの巧みさは微塵も感じられなかった。
製品自体はその後のレビューも良かったが、プレゼンを見た顧客たちは何ら魅力を感じられず、CEOになって初めての新製品としては先行き不安な結果となった。
また、すでにアップル最大のサプライヤーとなっていたフォックスコンの悪質な労働環境が、テレビ放映され波紋を呼んだ。工場の労働者は、12時間シフトで時給は2ドル未満、さらに給料から食事代と家賃が引かれていた。クックはただちに外部の専門家チームを雇い、中国の工場を調査させた。
そしてアップルは自社に携わる全ての労働者が、安全な労働環境と作業に見合った賃金を与えられるように働きかけていくと宣言した。自らも中国に飛び、そこで働く人々の話を聞くなど、労働環境改善に労力をおしまなかった。
以来、クックの指揮下で、アップルはサプライチェーンの労働環境改善を促進し続けている。