ビジネスパーソンの日常は交渉の連続だ。しかし、苦手意識を持っている人も多いだろう。そこで、交渉学の専門家である石井通明氏に、最高の成果を得るための交渉術を教えてもらった。石井氏によると、相手の気持ちや心の動きは、視線から読み取れるという。
※本稿は、石井通明著『最高の結果を得る「戦略的」交渉の全技術』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
知っているだけで、交渉を優位に進められる
何も言葉を発しなくても、目を見ればその人の心情がうかがい知れることがあります。テレビ番組などでたまに取り上げられていますが、「アイトラッカー」などと呼ばれる機械で視線の動きを追いかけ、心理状態を判断することができます。AI時代ともなれば、機械で容易に人の心の中がのぞけるわけです。
心理学の分野でも、「視線解析」や「アイ・アクセシング・キュー」などと呼ばれる、視線の動きを観察する方法を使って、その人の思考や心理を分析することができるとされています。
まず、その人の視線がどちらを向くかによって、何を思い出そうとしているかがわかります。通常、映像などの視覚的イメージを思い出す時には目は上を向きます。逆に視線が下向きになった時には、身体的・感覚的なイメージを思い出す時のポーズとされます。自分自身でやってみると、何となく理解できるのではないでしょうか。
さらに、視線が左上に動いた時には、視覚イメージの中でも記憶にまつわるものを思い出していることが多く、例えば「小学校の時の給食にはどういうメニューがありましたか」といった、過去の映像を思い浮かべる時に視線は左上に動きます。
右上に視線が動いたら、視覚イメージを創造している場合が多いとされています。「アイアイという動物はどういう姿をしていますか?」という質問で、アイアイの姿形を知らなかった場合には、右上に視線が動くのです。ウソを考えるときも右上を向きます。
左右への視線の動きは、主に音に対するイメージに関連づけられます。視線が左横に動いた時には、「ベートーベンの『第九』とはどんな曲?」など、すでに知っている音や音楽を思い出そうとしている時の動きです。一方、右横に動いた時には「アイアイという動物の鳴き声はどんな感じでしょう」と尋ねられた時など、聞いたことのない音をイメージし、考え出している時に動くとされています。
そして下向きは身体的イメージが一般的だと前述しましたが、それは主に右下に動いた時です。「無重力の時の感覚はどうだろう」など、経験したことのない感覚をイメージする時には右下に視線が移動します。
左下の場合は、過去の感覚や経験と照らし合わせて、自問自答のような内部対話している時の視線の動き方になります。
このように、人の心理状態は、視線の動きでだいたい把握できることが心理学においてはわかっています。利き手の違いや、右脳と左脳のバランスの問題などによって、完全に真逆になる場合もありますし、個人差もあるので「絶対」とは言い切れませんが、一般的に視線には心の内を表す傾向がある、ということです。実際に、その人がどういう思考傾向にあるかは、何度か試してみて確認すればわかります。
相手の視線があちこちにさまよっている時は、心理的に動揺している傾向にあり、一定方向にずっと向きっぱなしで自分のほうをあまり見ない時には、話題がおもしろくない場合や面倒だと思っている時など、こちら側に興味がないことが判断できます。
ここでいう視線の動きは、相手側の心理や思考を読む場合の話ですが、同様に相手も同じテクニックでこちら側の心理を読もうとしているはずです。自分の思考や心理が筒抜けになっては意味がありません。自分の視線の動きにも注意を払ったほうがいいでしょう。
【POINT】視線が動いた先には相手の思考や心の動きが現れる。相手の視線をとらえ、交渉を優位に進めよう。