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浮気夫が突きつけた離婚…“前向きな”妻が取り違えた「現実」と「願望」

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2019年11月14日 公開 2023年07月26日 更新

 

逆境から逃げなかったのに、夫は戻ってこなかった

しかし対処するということは逃げないということである。

対処すれば上手く対処できる時もあれば、上手く対処できないという時もある。

しかし自信はつく。

対処しないで逃げると、結果として上手く処理できても、自分は困難に対処できない人間であるという自己イメージを強化してしまう。自信を失う。

そこでいよいよ表面的な力を求める。いよいよ誇大な自己イメージを必要とする。それがカレン・ホルナイの言う神経症的自尊心である。

レジリエンスのある人は、自分の位置を知っている人である。つまり自分の力を自覚している。

社会の中での自分の位置が分かっている。だからエネルギーの使い方が効率的である。

ところで今書いている47才の女性は「必ず帰って来ると信じていたので」と言う。

しかし夫と33才の女性の恋愛は続き、彼女は軽いうつ病になった。

彼女のしている事を表面的に見ると、確かにレジリエンスのある人である。しかし現実を見ると、残念ながら彼女はレジリエンスのある人ではない。うつ病になっている。

 

前向きに見えても「現実」は受け入れていなかった

彼女のどこに問題があったのか。

プロアクティブは起きたことに対処することである。

彼女はいかにもプロアクティブであるように見えるが、実は肝心なことが抜けている。現実を受けいれていない。あるいは現実と接していない。

レジリエンスの特徴の一つは起きたことに対応するといっても、その前提条件は現実と接し、その現実を受けいれていることである。

彼女は夫を憎みながらも、その憎しみを表現できない。憎しみの感情を無意識に抑圧する。そこでうつ病になる。

「夫は必ず帰って来る」という彼女の思い込みと、とっさにとった彼女の態度は何を意味するのだろうか。

表面的には完璧にレジリエンスのある人である。

レジリエンスの特徴はいろいろとあるが最後は固い信念である。

「こうなる」という楽観主義である。しかも「間違いなくこうなる」という楽観主義である。

アーロン・ベックの指摘を待つまでもなくうつ病の動機の特徴は否定的予測である( (註(註。

「だめに決まっている」といううつ病者の否定的予測と、「必ずできる」というレジリエンスのある人の楽観主義的予測の違いは決定的である。

ともにそこには合理的な根拠はない。

うつ病者が「だめに決まっている」と言うところで、「できるわよ、必ずできる、間違いない」とレジリエンスのある人は言う。

彼女は、夫は戻ってくると「信じた」のである。

問題は彼女が「自分は夫を失った」という現実を受けいれることを拒否したことである。実は彼女の現実否認はレジリエンスのある人の逆の姿勢である。

辛い現実から生じる心の苦痛を回避するために彼女は「夫が帰って来る」と、とっさに「信じた」。

彼女は「信じた」と言うが、実は信じたのではない。「信じたかった」だけである。

彼女は辛い現実を受けいれることを拒否した。彼女は夫に対する今までの見方を変えない。彼女は今までの夫のイメージに執着する。過去との決別がない。

心が新しい情報に開かれていない。

ハーヴァード大学の心理学のエレン・ランガー教授の言葉を使えばマインドレスネスである。

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現実を受け入れてこそ、心は回復する

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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