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「名代 富士そば」の成長を支える“情と理”の経営哲学

マネジメント誌「衆知」

2020年01月06日 公開 2020年01月06日 更新

部下の“器”を見極めて適材適所を判断する

人材に対する私の考え方が最も顕著に表れている場所は、「富士そば」の生命線である店舗かもしれません。

紹介が遅れましたが、「名代 富士そば」は、グループ会社八社を擁するダイタングループが、東京を中心に展開する立ち食いそばのチェーン店です。店舗数は国内外合わせて152店舗(2018年12月現在)。大半の店舗が24時間営業で、駅前のよく目立つ場所にあります。首都圏の、特にサラリーマンの方なら、当店のロゴマークになじみがあるのではないでしょうか。

その一軒一軒を、お客様と同じように電車や徒歩で訪ね、現場を直接見て回るのが私の社長時代からの日課です。2015年に社長職を息子に譲りましたが、お店回りは今も欠かしません。オフィスには私専用の会長室もないし、好都合なんですよ(笑)。

抜き打ちでふらりと店に顔を出し、自分のお金で注文します。まずチェックするのは、当然ながら商品の味。出汁の濃さから天ぷらの衣の厚さまで、ひと口味わえば、違いはすぐにわかります。いくら値段が手頃でも、肝心の味が落ちれば、お客様は瞬く間に離れていってしまいますからね。

味以外にも、店員の働きぶりや店内の雰囲気をひと通り確認しますが、実は私がお店回りで一番知りたいのは、その店と、店のリーダーたる店長との“相性”なのです。

人間個々に“器”というものがあり、店長の器と比べて、店舗の規模が大きすぎたり、忙しすぎたりすると、なかなかうまく噛み合いません。業績が伸びず、店長自身も元気を失いがち。そんな時は、少し小さな店舗に配置転換し、余裕を持って店を切り盛りしてもらうと、その人なりのよさや能力を引き出せることがよくあります。

しかも不思議なもので、異動した先の店舗とうまく噛み合えば、今度はその店長の器が一回りも二回りも大きくなって、より大きな店でも安心して任せられるリーダーへと成長していくのです。

要は、適材適所。それが人を育てるコツでしょう。業績がふるわないからダメと部下を切り捨てるのではなく、あくまでも本人の可能性を信じ、その器や個性をよく見極めて、能力が花開く環境を用意することこそ、上に立つ者の責務と心得るべきです。

とはいえ、まずは全力で働いてみないと、器も、何もわかりません。「富士そば」の従業員はすべて、採用されるといきなり店舗という現場の最前線に立ち、一店員からスタートします。

各店舗を管理する本社の社員も、係長であれ、常務であれ、ほぼ全員が現場上がり。現場を経験してこそ、具体的な業務の仕組みだけでなく、商売の難しさや面白さ、店を支える従業員の大変さが身に沁みてわかろうというものでしょう。会社や店舗を引っ張る立場に就いた時、その経験が活きてくるに違いありません。
 

“ちょうどいいところ”に「富士そば」がある理由

先日も、都内のある店舗を回っていたら、サラリーマンの方でしょうか、お客様同士の会話から、こんな嬉しい言葉が聞こえてきました。

「富士そばって、ちょうどいいところにあるんだよなぁ」――わが意を得たりと、思わず膝を打ちたくなったのは言うまでもありません。

立ち食いそば屋を利用する人は、「今日はそばを食べたいから、富士そばへ行こう」とは、まず考えないはずです。それよりも、仕事の合間や移動のついでに、さっと手軽にお腹を満たしたい。そんな時、パッと目につく場所に店があれば、「駅前で便利だし、富士そばでも行くか」と考える人が多いのではないでしょうか。それが、お客様がおっしゃっていた“ちょうどいいところ”の真意だと思います。

つまり、立ち食いそば屋という商売は、出店先となる物件選びが勝敗を分けるといっていい。私に不動産業の経験があったことから、「富士そば」では、「駅から100メートル以内」「5分間に100人以上の人通りがある場所」など、立地にとことんこだわり続けてきました。そば屋というより、もはや不動産屋に近いかもしれませんね(笑)。

当社グループの組織体系としては、会長、社長、そしてグループ各社のトップを務める常務、その下で複数の店舗を束ねる係長、各店舗の店長・主任と続きますが、肝心の物件を探してくるのは、出店戦略全般を担う常務の仕事です。不動産業者から物件を紹介したいという情報が、毎朝30件ほど入りますから、常務たちが実際にそれらを見て回って、「いける」となったら、私が最終判断を下すのです。

物件探しというと、普通は店舗開発や営業推進といった部署の役割でしょう。しかし私は、「富士そば」にそういう専門の部署をいっさい設けてこなかった。なぜなら、万一出した店がうまくいかなかった時、「こんな物件を見つけてきた開発部が悪い」「違う。設計部のデザインがダメなんだ」「営業の努力が足りない」と、他部署との責任のなすりつけ合いになるのが嫌だからです。専門性や役割分担というと聞こえはいいのですが、仕事を分けると、どうしても失敗を他者のせいにしてしまう。人の弱さかもしれません。

実際にそういうトラブルを何度も見てきたので、私はあえて部署をつくらず、常務一人ひとりに、物件探しから店舗開発、営業、資金調達まで、すべて任せることにしました。自分で苦労して見つけた物件であれば、なんとか売上を伸ばそうと覚悟も違ってきますからね。

ちなみに、「富士そば」には人事部もありません。どういう人材が必要かを一番よくわかっているのは現場ですから、各社の現場を統括する常務と係長に、募集や採用などもすべて一任しているのです。

次のリーダーにふさわしい、経営感覚のある人材を輩出したいと思うなら、見どころのありそうな部下には、早くからいろいろなことを任せるべきでしょう。現場経験を含め、多方面から幅広くかかわることで、仕事の全体像が見えてきます。貢献できる領域が大きくなるほど、組織を背負って立つ自覚や責任感も自然と芽生えてくるものです。

※本稿は、マネジメント誌「衆知」【2019年3・4月号】特集「後進を育てる」掲載記事を転載したものです。

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