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子どもの学力を左右してしまう、親の経済力とは別の「重要な要素」

中野信子(脳科学者)、鬼塚忠(作家エージェンシー代表)

2020年04月09日 公開 2024年12月16日 更新

 

子どもの学力を左右するのは「親の○○力」?

その経済的地位が再生産されていくという調査ですが、思うに、親の経済状態そのものが子の学力に相関関係があるというよりも、むしろそのことと相関関係にある別の要素の方が子の学力に関係があるのではないかという疑問もあります。

(鬼塚)つまり、子の教育に影響を与えるのは、調査が結論づけた経済的環境ではなくその背景にある別のものというのですね。では、それは何でしょう?

(中野)はい、経済的環境の背景にあるものは、私は、もっと複合的なものと疑った方がいいと考えます。もともと親が努力家であったり、親の学力が高かったりしたのかもしれないというわけです。

その指標になるのが、親の語彙力ではないかと考えます。語彙力というのは一つの物事に対して、どんなに豊かな表現が出来るかという指標です。たとえば、語彙力のない親は「あいつ、馬鹿だ」と言い捨てます。

これが語彙力に富む親なら、上品に「賢い選択とは言えないね」という言い方をします。子を褒めるときなど、日常の会話のなかにもこうした語彙力の違いは如実に出てきます。

親自身も経済的に豊かな環境で育ったからこそ、高度の教育を受けられ語彙力が高まった。そうしたひとが親として子育をした結果、その子どもの学力が高まる、という流れはごく自然ですし、説得力があります。

(鬼塚)子が育つというのは、親の経済的環境一辺倒ではないという話ですね。

(中野)経済的余裕のほかに心理的余裕も重要だと思います。親が子育をする際の心理的余裕についてはこんな研究結果もあります。

母が危険な目に遭ったりする度合いが低いと、子の知能を高く育てられるというのです。これは心理的余裕が要因であると考えられます。毒親育ちの人が毒の振る舞いをしてしまう背景には、この心理的余裕のなさが大きく影響しているのではないでしょうか。

この話は多くのことを気づかせてくれます。ひとつは心理的な余裕を持つことで、毒のスパイラルから自分を救い出すことが可能になるかもしれないということです。

もうひとつは、母親の年齢が高くなることで、若かった頃には処理できなかった不安や不満が処理できるようになってきます。これは、脳にも長い年月をかけて自分の傷をいやしていくような変化が起きることを示唆します。

つまり子ども時代の傷も、いつかは治り、癒される可能性が開けているということです。

著者紹介

中野信子(なかの・のぶこ)

脳科学者

1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所に博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。現在、東日本国際大学教授。

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