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議論のフリして自分の主張だけをゴリ押す人…「議論属」が生み出す“時間のムダ”

石川幹人(明治大学教授)

2020年06月05日 公開 2022年06月30日 更新

 

誤りを認められない心理が邪魔をする

議論は、「脱・暴力」という点では一定の評価が下されますが、ぜひとも脱・上下関係までいきたいものです。上に立つ必要性がない場面も増えているのですから。

まずは「誤りを認める」ことが、脱・上下関係に向けた第一歩になります。自分の意見の問題を指摘されたら、「なるほど、そうかもしれないな」と、気づきが得られたという姿勢や、考える必要性を認識した姿勢を表明してみましょう。

だんだんと、「勝負して勝ちたい」という気持ちが、「人々と協力して生産的な成果を挙げよう」という気持ちに変わっていくのではないでしょうか。

議論属を脱してくると、ほかの議論属が目についてきます。「こちらが協力を目指しているのに、相手は勝負を挑んできているな」とわかってきます。その場合は、説得に回りましょう。自らに議論属を脱した経験があれば、議論属を説得する手がかりがより発見しやすくなるはずです。

議論属は、議論の目的をわきまえれば「議論上手」ともいえます。ぜひ、培った議論の技能を、民主的な議論に活かしてほしいものです。

 

議論属との議論は「不毛な作業」

議論属の主張は論点を追うのが難しく、こちらで整理を試みても、はぐらかされたり揚げ足をとられたりします。議論属は「それは負けを認めたということですね」などと、自分の勝ちを印象づける技術に長けているので、よくわからずにだまって見ている周囲の人々には、むしろ「有能な人」と映ります。

議論属と議論するのは不毛な作業なので、議論に対する姿勢を改めてもらうのが得策です。議論の前に、「この議論は何を求めているのか」を明白にし、議論の目的に反する内容の発言や、勝ちを狙った表現については控えるように明言するのがいいでしょう。ただ、この方法がうまくいくかどうかは、議論の司会者の経験と技能にかかっています。

議論には、どんなメンバーで、どのようにおこなうかの戦略が必要です。たんに言いたいことを言う場にして時間を浪費してしまえば、デメリットのほうが大きいでしょう。

議論属はメンバーに加えずに、後で検討結果について意見だけ聞くという対処も有効です。議論属は、聴衆がいない状況では勝ちを誇ることができないので、意外におとなしいことも多いのです。

 

議論属の「活躍の場」が増えてしまった現代

インターネットなどの情報技術が発展した今日、電子掲示板やネット会議室が増え、だれでも気軽に発言ができる場が増えました。「言論の自由」という精神からすれば、理想的な状態のはずです。ところが、そうした場が十分に活用されていない現状が目につきます。その原因のひとつが、「議論属の活躍」です。

掲示板で健全な議論がおこなわれていても、議論属がやってくると荒れてしまいます。議論属の投稿ばかりが目立って論点がわからなくなると、論点を整理する手間が大きくなり、健全な議論をしていた人々は去っていきます。ときには「残された議論属同士が延々と議論しているだけで、聴衆はだれもいない」という事例も見られます。

「日本人は議論が下手」といわれますが、原因として、議論の場に上下関係が持ち込まれていることが指摘できます。議論の場で上司が威厳を示したり、異論をもつ部下のガス抜きに議論が使われたりしています。職場で会議がやたらに多いのも、それが理由かもしれません。

現代の情報社会に合わせた生産的な議論が、ネット上でも職場でも、ますます求められるようになっています。

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