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社会

カルト,不良,ママ友…彼らはなぜ「異様な集団」から抜け出せないのか

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2020年08月28日 公開 2023年07月26日 更新

 

カルト集団はこうしてできる

自己陶酔しているナルシシストが注意をされた時には、自分の存在を否定されたと感じる。受けた心の傷の深刻度は、心理的健康な人の想像を絶するほど深刻である。

さらにナルシシズムが消化している人には想像できないほどしつこく激しい怒りである。自己陶酔の心の底には怖れがある。ナルシシストは自分に囚われていながらも怯えている。

たとえ社会的に勝ち組と言われても心の底では怯えている。問題はその現実を突きつけられて、自己陶酔できなくなる時である。心の底の恐怖感が表面化してくる。ナルシシストにとって周囲の世界は敵である。

そこでナルシシストは周囲の世界を攻撃し優位に立とうとする。ナルシシスティックな自惚れに対する代償は「孤独と恐怖感」だとフロムはいう。ある人は素晴しいものを身につけたり、高価なものを持つことで、その孤独や恐怖から逃れようとする。

そこでナルシシストは外側ばかりを整えることにエネルギーを使う。それは「彼即すなわち物であれば、彼は孤独ではない」からである。今の人があれほどブランド物に興味を示すのは、彼らがナルシシストで孤独だからである。

それを身につけている自分に酔える。ブランド物を身につけている「素敵な私」に酔える。「私はステキ!」と、自惚れることができる。それを着ることで「あの人よりも私は素晴しい」と自惚れることができる。

そうした自分のナルシシズムが傷つかないようにその自己イメージを大切に守る。そうしたブランド物を身につけた仲間が集まり、お互いに「ステキー!」と言い合ってナルシシズムを満たす。

これは「二者の愚行」をしているだけである。お互いに褒め合うことを二者の愚行という。エネルギーのない人が手抜きで自分の価値を上げる方法の一つである。それはフロムが「二者の愚行」といったような人間環境である。

お互いに称賛しあっている。しかし両者のそれぞれの心の底には自己蔑視がある。しかしお互いに相手の自己蔑視が見えていない。本人も自分の自己蔑視に気がついていない。

子どもの時には親子で二者の愚行は時に、子どもには必要である。しかし大人になればエネルギーがない人がする。二者の愚行をする人はお互いに相手が好きではない。お互いに相手が大切ではない。

うつ病になるような人の人間関係、それはお互いに嫌いなのにお互いに好きだと思っている関係である。お互いに憎みながらお互いに愛していると思っている。典型的なのがカルト集団である。

カルト集団ばかりか周囲の人から見て鼻持ちならない集団、例えば鼻持ちならないお金持ちの家族や、虚栄心の強い友人グループ、劣等感で結びついている非行少年グループ、不安で結びついているグループ、そうしたいろいろな不自然な集団がそうである。

つまりマイナスの感情を絆としてできあがっている関係である。今の日本人の拝物主義も拝金主義もナルシシズムの現れであろう。どんなに世界一周の旅行をしても、その人の心の世界は狭い。

そして今、例えば髪型等に異常に関心が集まっているのも同じである。日々努力してなにかを達成するのではなく、有名な美容師に髪を整えてもらえば、それで自分に酔える。ナルシシストは努力ができない。今はまさにナルシシストの時代なのである。

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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