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生き方

学生時代にいなかった「嫌な人」が、社会に出ると増えるのはなぜか?

前野隆司(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)

2020年09月20日 公開

学生時代にいなかった「嫌な人」が、社会に出ると増えるのはなぜか?

慶應義塾大学大学院の前野隆司教授は、ロボットの「心」の研究から「幸福学」研究へと転身し、「幸せ」という形のないものに対して科学的なアプローチを通して、そのメカニズムを明らかにすべく研究に勤しむ科学者である。

そんな前野氏が新著『7日間で「幸せになる」授業』にて、科学的に導き出した誰もが自分で幸せになれる心のベースの作り方を明かしているが、そのなかで「善人だけの社会が成立するのか」について考察している。本稿では同書よりその一節を紹介する。

※本稿は前野隆司著『7日間で「幸せになる」授業』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです。

 

善人だけでは社会が成立しない、は本当なのか?

私は理系の職場から文理融合の大学院に移り、幸福学という新しい分野を立ち上げました。その理由の一つは、幸せのメカニズムを明らかにしたかったからです。

曖昧で抽象的だった幸せという概念を、科学の世界に落とし込んでいきたい。人が幸せになるための考え方や手法を解き明かすことによって、より多くの人々を幸せにしたい。世界中の人たちが幸せな世界をつくりたい、世界平和を実現したい。これらが動機です。

あまりにも壮大で宗教のようだと思う人もいるでしょう。しかし、私は、一人の科学者として極めてまじめに考えているのです。想像してみてください。もしも世界中の人々が幸福感に溢れていたら。

そこに無意味な争いは起きません。みんなが利他の心をもっていたら。そこには平和な空気が自然と生まれます。壮大でもなんでもありません。子供でもわかる、純粋で当たり前のことです。

しかし、これまでの長い人類の歴史において、そんな平和を実現させた国や地域は存在しません。常にどこかで誰かが争っている。人間は、何千年も何万年もの間、大きな視点で考えることをついつい忘れた結果として、幸せな世界をつくりそびれてきたのではないでしょうか。

世の中のすべての人が善人、つまりいい人であれば、その世界は平和なものになるでしょう。そんなことはあり得ないと言う人もいるでしょう。

あるいは、すべての人が善人という社会は成立しないと言う人もいます。一定数の悪人がいるからこそ、社会というものは成立しているのだと。善人ばかりの社会などぬるま湯に浸かったような面白味のない世界だと。

私はそうは思いません。みんなが善人で、しかもみんながみんなのために生き生きとやる気をもって生きる世界をありありと想像できます。想像できることは実現できるはずです。

 

調査の結果分かった「悪人は幸福度が低い」

実際に調査をしてみると、いわゆる「悪人」は幸福度が低いことが明らかです。まあ、ヒーローもののドラマじゃあるまいし、そもそも根っからの悪人なんていませんが、わかりやすいので悪人について考えてみましょう。

たとえ悪いことをしてお金を儲けたとしても、そこに大きな幸福感はありません。周囲から性格が悪いと思われている人の幸福度が低いこともわかっています。

幸福度が高い人は性格のいい人なのです。つまり社会のなかで「悪人」と思われている人たちは、言ってみればかわいそうな人です。

いつも攻撃的で怒ってばかりいたり、ずるいことばかりを考えていたりする。高圧的な態度をとっていても、実は自己肯定感が低く、幸福度も低いのです。

そういう人たちは、社会の役に立たないと同時に不幸で短命で不健康な傾向があります。

もし、そういう人たちが幸せになる道筋を理解し、より良い人生のために歩み始めたら、きっと多くの「悪人」は「善人」になっていくでしょう。そして社会はどんどん平和で暮らしやすくなるでしょう。「悪人」ばかりではありません。

自信を失いかけている人や挫折感を感じている人たちが幸せを目指せば、みんながもっている能力を発揮できます。すると、平和で心豊かな社会になっていくに違いありません。

そんな世界を、みんなで目指すべきだと思いませんか。みんなが幸せになれると信じる社会をつくるべきだと思いませんか。

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