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生き方

がん専門の精神科医が知った「成功しても幸せになれない人の共通点」

清水研(精神科医)

2020年09月15日 公開

がん専門の精神科医が知った「成功しても幸せになれない人の共通点」

日常の中でなかなか気づくのは難しいですが、ほとんどの人は実は2種類の自分を持っています。「must(こうすべき)」という自分と「want(こうしたい)」という自分です。幼少期には人は「want」で生きることができますが、親や社会とのふれあいの中で徐々に「must」の自分を持つようになります。

4,000人以上のがん患者と対話をしてきた精神科医である清水研氏は、社会的に成功を収めている人でも、この「must」を抱えていると「生きづらさ」を生み出してしまうといいます。

同氏の新著『他人の期待に応えない』(SBクリエイティブ)より、「must」の自分を取り除き、「生きづらさ」を解消する方法について触れた一節を紹介する。

※本稿は清水研著『他人の期待に応えない』(SBクリエイティブ刊)より一部抜粋・編集したものです

 

「must」をアンインストールする方法

なかなか「must」の呪縛から抜け出せない人の頭の中を、パソコンに例えてみれば、行動を律する命令調のポップアップが登場しているのだと思います。

例えば、休んでいると「ちゃんとしなきゃダメでしょう!」というポップアップが登場したり、仕事でも「そんないい加減な仕事で大丈夫なのか?」とか、「おい、誘いにはちゃんと応えないと不誠実だろ」とか、うるさいくらいにポップアップが登場しているように推察します。私も以前はそうでした。

こういう人には、「あなたの頭の中には、例えて言えば厄介なソフトがインストールされている」という指摘をするようにしています。こうしたいと思っていても、「must」のポップアップが出てくるので、気が気ではなく、心のままに振る舞うことを邪魔します。

また、心が休まるのを阻害するので、ポップアップを出しているソフトにパソコンの処理能力の多くが使われてしまうようなものです。本当に必要な時に、本来の処理速度が出なくなってしまうので、そのソフトはアンインストールした方がよいでしょう。では、どうやればこの厄介なソフトをアンインストールできるのか。 

最初の一歩は、自分の中の「must」と「want」をきちんと区別することです。多くの人の頭の中には、「こうしたい」という「want」の自分と、「こうすべき」という「must」の自分が混在し、両方とも同じ自分として認識されています。

同じ自分として認識するのではなく、自分の中には「want」の声と、「must」の声があること、それぞれにラベルを付けることができれば最初のステップが成功したことになります。

アンインストールしたいのは、「こうすべき」という「must」の声をポップアップさせるソフトなので、「must」の声が出てきたら、「これは本来の自分の声ではない」、「変なソフトが入っている」と異物として、しっかり認識するのです。

これを繰り返しているうちに、徐々にポップアップを意識的に操作できるようになります。ただし、急にできるようになるわけでもなく、また、必ずしも全ての「must」の声を否定しなくてはいけないわけでもないので、徐々に進めていけばいいでしょう。

 

「must」の声をじっくり吟味する

「must」の自分を認識できるようになったらどうしたらいいか。これから書くことは、自分の「want」の声を聴き、自分らしく生きることを選択するためのささやかなコツです。

私自身、「must」の呪縛が強かったので、そこから抜け出るために苦労し、いろいろと試行錯誤しました。私に良かったことが皆さまの役に立つか確信は持てませんが、少し参考にしていただけると幸いです。

一時期、私は頼まれた仕事を断れずに強迫的なまでに引き受けてしまい、完全な容量オーバーで仕事におぼれているような感覚で毎日を過ごしていました。明らかに作業効率も落ちていましたが、それでも頼まれたら断れず、さらに自分を追い詰めるという悪循環になっていました。

今からするとなんでそんなことをやっていたのだろうと思うような状況でしたが、当時は「そんなことではダメだ」、「期待に応え続けないと信頼を失ってしまう」という強烈な声が聞こえ、「休みたい」、「もう無理だ」という自分の声をかき消していたのです。

当時の自分に言ってやりたいことは、「must」の自分に従って「want」を犠牲にすることは、相当重苦しいものを引き受けなければならないということです。

行きたくもない会合に誘われたときや、やりたくない仕事を頼まれたときに、「断ったらその後孤立するかもしれないぞ!」というもう1人の自分が出てくるかもしれません。ある仕事を仕上げているときに「もっときちんとやらなければダメな人間だと思われてしまうぞ!」という声が聞こえてくるかもしれません。

もちろん、それらを全て断ることは簡単ではないかもしれませんが、やりたくないことを引き受けることが積み重なれば人生をむなしくさせ、生き生きと生きるエネルギーを根こそぎ奪い、その結果としてうつ病にさえなってしまうリスクをはらんでいます。

そんな犠牲を払ってでも行く価値がある会合なのか、引き受けなければならない仕事なのだろうか、ということを「must」の声に無条件に従う前に、きちんと吟味してみたらよいと思います。そして、徐々に「must」の声に反抗していったらいかがでしょうか。恐る恐る、ささやかなものからでよいのです。

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小さなところから「want」の声を聴く

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