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「タワマン」を共有財産とする悪夢…マンションは買うべきか、借りるべきか?

河合雅司(人口減少対策総合研究所 理事長),牧野知弘(不動産評論家)

2020年10月02日 公開 2022年07月07日 更新

 

旧耐震基準のマンションのうち、建て替えが実現したのは1%

(河合)仮に空き家問題がなかったとしても、マンションの修繕のために他の入居者と合意形成を行うのは、かなり困難な作業になります。

マンションの場合、購入時には年齢も年収も家族構成も似通った人が多くなりがちですが、20年30年と経つうちに、年収や家族構成が変わってきます。

マンションの修繕が必要になった時に、さまざまな背景がある入居者と合意形成をおこなうのはかなり困難な作業です。結果的に、修繕すべき箇所がいつまでたっても修繕されないという事態も起こり得ます。

タワーマンションのように入居世帯数が非常に多い物件など気の遠くなる作業となるでしょう。建て替えの合意取り付けとなるとさらに難しいです。

そもそも私は、基本的にマンションという共有財産を「区分所有」するというのは、人口減少時代には合わないと考えています。

(牧野)そうですね。私が三井不動産でビルの管理業務の仕事を行っていた時に、オーナーが3人いらっしゃった区分所有のビルを担当しました。三井不動産はそのビルでサブリース(転貸)事業を行っていたのですが、当時はビル需要が低下していて、オーナーの方々に「借地借家法32条に基づいて、借家料の引き下げをお願いしたい」という交渉を行ったんです。

仮にAさん、Bさん、Cさんとすると、Aさんは「やむを得ないですね」とあっさりOK。でも、Bさんは慎重な性格の方で、OKともノーとも言わず、曖昧な返事しか返してこない。Cさんに打診したら、「冗談じゃない」と取り付く島がない。

さらにこのビルは築20年だったのですが、修繕についても同意を得られない。テナントの方からは、「どうして修繕しないんだ」と、我々にクレームが来る。どうにも厄介な仕事でした。以来私は、「区分所有のビルのサブリースはやめたほうがいい」と強く思いました。

ところが、マンションの場合は3人どころではありません。数百戸、多い場合は1000戸以上の入居者が入っています。意思疎通なんて、できるはずがない…と思ってしまいます。

旧耐震基準のマンションのうち、建て替えが実現するのは1パーセントほどしかありません。仮にマンション住民の5分の4の合意が得られて、建て替えが可能になっても、例えば中に寝たきりのおばあちゃんがいたときに、誰がそのおばあちゃんを部屋から出すんだ、という話になる。こういう、いわばきわめて「ベタ」な事情で、建て替えが進まないんです。

私は、マンションの購入を検討している方には、「永住資産としてのマンションはリスクが高い。買うのはいいですが、10年以内に売却することを検討してください」と伝えています。マンションに住むのは便利ですから、賃貸で住むのは問題ないと思いますが、購入は慎重になられた方がいいでしょう。

 

住宅の概念が根本から変わる

(河合)マンションが資産ではなくなるとしたら、「住宅とは何か」という根源的な問いにつながってきます。

(牧野)そうですね。自分の未来の、20年30年の給与を担保にして住宅を購入するという考え方は、令和の間になくなるでしょう。

(河合)果たして大枚をはたいて所有するだけの価値があるのか。この疑問が先に一般的になったのは、車でしたね。

我々の若い頃は、車を所有するというのは一つのステータスでした。でも今は、車を購入せず、利用するときだけ借りるというカーシェアリングの時代です。「平日は車に乗らない」「ガソリン代や駐車場代、車検代の負担が馬鹿にならない」といったことを検討すれば、カーシェアの方がはるかに合理的だといえます。

住宅も、それと同じかもしれません。「一所懸命」の鎌倉時代から、日本人は「土地は財産」だと思い込んできました。

戦前までは農業従事者が日本人の多くを占めていましたから、まさに土地は「富」を生む財産だったわけですが、会社の勤め人にとっては、実は土地は所有する必要のないものでした。サラリーマンが土地を財産だと思い込んだ理由、それは唯一、「会社に通勤しなければならないから」でした。

ところが、コロナショックによって在宅勤務が普及し、毎日通勤する必要性も薄れてきています。職場に通いやすい場所に住まいを確保する必要がなくなったならば全国各地を転々とするのもよい。ライフステージに応じて、その時々のニーズに合った住宅を選べばいいということになります。

(牧野)日本人は今まで、特に1995年以降、会社ファーストの家選びをしていました。ところが通勤の必要が無くなると、生活ファーストの家選びにシフトすることになります。一日の大半を家で過ごすことになるわけですから。

そうすると、自分の趣味嗜好に合う街を選ぶという傾向も生じてくる。ニーズが細分化していきます。

住宅を売る側の視点からいえば、とんでもない変化です(笑)。これまでは、「大手町から40分、駅から7分、だったら売れるな」といったように、利便性しか考えてこなかった。

これからは、お客さんのライフスタイルに寄り添って住宅を案内しなければならない。初めて、不動産業にマーケティングが必要な時代がやってきます。彼らは「これまでもやってきた」と言うかもしれませんが、本格的なマーケティングを行っていたとはとてもいえません。

(河合)そうですね。住宅産業も買い手のニーズに細かく応える時代が始まりますね。コロナ禍によって、これからは働き方も含めて「人間らしさ」を求める時代になっていくんだと思います。

効率性よりも、自分なりの生き方、自分なりの価値観を具現化するという方向性に人々の価値観がシフトしていきます。住宅選びもその方向性で考える時代になるでしょう。

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