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次期大統領選の結果は「分裂国家アメリカの過去」から見えてくる

水川明大

2020年10月14日 公開

 

白人層の不満をついて支持を得たトランプ

現在、トランプを支持している人種差別的な白人たちも、ある意味、このときの南部人に似ている。彼ら白人層は、長きにわたりアメリカの支配層であり、1950年、白人は全人口のおよそ9割を占めていた。

しかし、1960年代以降、大量の移民が押し寄せ、2014年には白人の割合は約6割にまで激減した。米国国勢調査局は、2044年までに白人は全人口の半分以下になると予想している。

トランプ支持の白人層は、南北戦争前の南部人と同じように、「次第に主流派から転落していく」不安とフラストレーションを深層心理に抱えている。トランプはこの思いを代弁したことで、「ステータス不安」を抱える彼ら白人層の強力な支持を得た。そして大統領になることができたのである。

トランプ支持の白人層は、主流派の地位をできるだけ維持、あるいは取り戻したいと思っている。彼らがかかげる「Make America Great Again(米国をもう一度偉大に)」の真意はここにある。

だから彼らにとっては、人種を越えた融和だの、多様性の尊重だのといった民主党のコアの主張には全く惹かれるところはない。これでは、お互いに折り合いの余地がなくなっていくのは当然であり、国民の二極化は進む一方となる。

 

「Black Lives Matter」から見える根強い差別

一方、米国史を通じて、長らく白人による差別に苦しんできた黒人達にしてみれば、トランプ支持の白人層の「巻き返し」的な言動は、差別撤廃に向けた彼らの苦難の歩みを踏みにじるものでしかなかった。

1619年に最初の黒人奴隷が南部バージニアに連れてこられて以来、およそ250年間、黒人達(ほとんどが南部に居住)は、奴隷として酷使され続けた。

黒人奴隷は白人プランターの「所有物」であり、「人間」ではなかった。彼ら・彼女らは、綿花農場で重労働をさせられ、時には死ぬまで鞭で打たれ、レイプされ、子はよそに売られた。純白の綿花の裏側には、黒人達の赤い血と枯れることのない涙があったのだ。

南北戦争後の1865年、ようやく奴隷制を禁止する憲法修正条項が成立し、およそ10年間は北部人による南部改良が進められ、黒人の政治参加も前進した。

しかし、南部白人がそれまでの考えを捨てることはなく、北部人が撤退した後は、黒人の市民権は南部白人達によって奪われていった。これに抵抗する黒人は、「身の程を分からせるために」リンチされ、殺害された。

黒人は、投票権を奪われ、学校でも公共交通機関でも白人とは分離された。1960年代に公民権法が成立し、黒人が法の下の平等を手にできたのは、南北戦争から100年も経った後だった。

しかし、多くの黒人達にとって、白人による差別がなくなったという実感はない。黒人達は今なお、肌の色ゆえに、生命の危険を感じながら生活をしている。

昨今、論争の的となっている警官による黒人の射殺率は、実に白人の3倍にものぼる。黒人の命は奴隷制の時代から大事にされていなかったが、依然として変わらぬ状況に対する憤懣が破裂しているのが、最近の「Black Lives Matter運動」である。

「Black Lives Matter運動」は、公民権運動の延長線上にある反人種差別運動だが、トランプ支持の白人層の目には、白人支配への挑戦としか映っていない。しかも、トランプ大統領は、人種差別への抗議デモに対し、連邦軍を派遣して取り締まると脅し、支持白人層の見解を共有している。

1954年に、学校における人種分離が違憲とされ、その後、黒人学生が白人の通う高校や大学に登校しようとしたとき、アイゼンハワー大統領(共和)やケネディ大統領(民主)は、その黒人学生を人種差別主義者による危害から守るため、連邦軍を派遣した。

トランプがやろうとしていることは逆であり、この人物が、いかに自分を支持する白人層のために動いているかがよく分かる。主流派・支配層からの転落を恐れる白人層と、何百年経っても平等に扱われないフラストレーションを抱えた黒人層では、折り合える余地は見いだせない。

大統領自身が、一方の側に立っている以上、分裂は煽られるばかりである。こうなれば、南北戦争前夜のアメリカと同じように、分裂の修復はかなり難しいかもしれないと思われる。

アメリカの分裂問題は、私たちが考える以上に根深い。しかし、過去を知ることは、違った見方も教えてくれる。歴史を丁寧にみると、アメリカのもうひとつの側面にも気がつく――この国には、分裂国家に立ち向かった偉大な政治家がいたということに。

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分裂国家に立ち向かった「アメリカ建国の父」

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