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【対談】養老孟司×井上智洋 「AI化は雇用創出が難しい」起こりうる“労働移動”の逆流



2020年11月13日 公開

養老孟司(解剖学者),井上智洋(経済学者)

養老孟司著 『AIの壁』

解剖学者・養老孟司と経済学者・井上智洋。AI化は、今後の経済・ひいては社会にどんな影響を及ぼすのか。養老孟司氏と各界のトップランナーとの対談集『AIの壁 人間の知性を問いなおす』(PHP新書)より、内容を抜粋してお届けする。(構成・古川雅子)

※本稿は『AIの壁 人間の知性を問いなおす』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「労働移動」の逆流が起きる

【井上】僕が気になるのは、AIを他の技術と横並びに語る人も未だに多いということです。僕自身は、AIが他の役に立つ技術と比べて突出しているなと思う点は、機能的には人間に近づいていくところです。

バイオテクノロジーもそういう側面がある。いずれも、究極の技術なんですよね。それが人間の根幹を脅かしかねない。

AIは意識は持てないかもしれないけれど、機能的にはどんどん人間に近づいていく。そうすると、AIに仕事を奪われた人が「労働移動」して、別の仕事に移ろうとしても、そこでもAIがすでに活躍していて、結局職に就けないということになりかねない。

【養老】産業革命の時代、蒸気機関に仕事を奪われた人は、他の仕事に移れば良かったからね。

【井上】はい。AI化は、IT化の流れにあるから、あまり新しい雇用を作らない。人々を古い産業の方に戻してしまう可能性がある。これは言ってみれば「労働移動」の逆流です。

AIだけじゃなくて、IT産業があまり雇用を作らないというのは簡単な話で、自動車を1台作るのに、少なくともこれまではある程度の労力や人手がかかっていた。反対にソフトウエアは、1個作ってしまったら、あとはコピーするのはタダ。

全然人手がかからない。だから、頭のいい人たちが一つソフトウエアを開発すれば、あとはコピーするだけという点が、特化型AIを含むITの基本的な問題でもある。

そしてそれをさらに超えた問題として、汎用AIのように人間並みにいろんなタスクができるものが登場してくると、それが根こそぎ人間の仕事を奪っていく可能性があるわけです。その可能性があるということを前提に、経済や社会を考えていかないとまずいかなと。

【養老】僕なんかは、なんでそもそも人間に近づけるAIなんてことを考えるのかなと思っちゃう。「AI開発は進む」という前提で話さないで、「そういう仕事を奪われる社会になったら困るでしょ」と先に言う必要があるんじゃないかと。実際、格差の下側に落ちる人たちからは、今反乱が起こっているじゃないですか。

【井上】開発する研究者としては、楽しくてやめられないんですよね。

【養老】だから、大学は象牙の塔なんだ。研究者は未だに象牙の塔にこもっている。かつてアメリカでは、市民が大学に大砲を撃ち込んだという話が残っています。

要するに学問というのは、社会にとって危険なんです。場合によっては、大砲を撃ち込むべきものでもあるかもしれないと、前提を問う姿勢は大事。それなのに、むしろいいものとして許容してしまったのは、60年代の紛争以降の大学ですよ。

象牙の塔は、紛争当時、批判の対象だったんだから。これも一種の悪しき民主主義で、忘れたんです。そこに大事なことがあったのを、社会として「忘れた」。

【井上】養老さんは、紛争で研究を続けられなかった時期がおありなんですよね。

【養老】そう。あのときは権威が全部引きずり下ろされたんですね、僕が育ってくる時代の間に。先生も偉くなくなったし、親も偉くなくなった。でも、かつて権威がある人が持っていた威厳というのは、人間の社会では何か必要な部分でもあった。

【井上】何かは是正したかもしれないけれど、ある機能は失ってしまった。それが意外と大事なものでもあったと。

【養老】そうなんだよ。機能主義を突き詰めていくと失敗するっていう例だよね。

 

免疫という枠組みと胸腺──機能主義の矛盾

【養老】その分、僕がやっていた解剖学は、「機能」がつかないところが良かった。

【井上】死体は噓をつかないと。

【養老】本来の医学は面白くて、人体の働きという機能を見ていく生理学と、機能を見ないでその構造を見ていく解剖学と、その二つを分けてるんです。

ところが、その二つの学問がまったく一緒になったのが、イギリス。アングロサクソン流というのは、物事を見るときに、非常に機能的に見るんですね。機能的に見るとこぼれ落ちるものがたくさんあるんです。なぜかというと機能というのは、「枠組み」を決定しない限りわからないから。

例えば、私が学生の頃「胸腺というのは邪魔だ」と言われていた。お年寄りでは脂肪の塊になって、こんなものはいらないよなって。でも私が大学で研究者になって、若いマウスを解剖してみると、どかんと大きな胸腺が見えるんですね。「何をしてるんだろう、これ」って思ったよ。

どうやら胸腺が免疫と関係があるらしい、ぐらいのことは当時もわかっていました。でも、今となったら胸腺というのは、免疫にとっては欠くことができないぐらい大事だとわかる。つまり、免疫という概念がちゃんとしていない間は、胸腺の意味はまったくわからなかったわけなんですよ。

【井上】免疫の枠組みができたからこそ、胸腺は浮かばれたわけですね。

【養老】本来、機能というのは、その枠組みを前提とするんです。

【井上】皮肉な言い方をすると、AIが究極的に「お利口」なのだとしたら、その落ちてしまうかもしれない前提も拾い上げて補足できるようになったりしませんか?

【養老】みんな必ずそう言うんですよ。だけど、さっきも言ったように、どこまで行っても機能は「枠組み」が前提ですから。本来、前提を問うのが学問ですからね。

だから、逆に言うとコンピュータをやっている人が、「俺がやってる仕事、すごいコンピュータができたら要らなくなるんじゃないの?」とどこかで思わなきゃいけないときが来る。そうすると、俺、こんなことやる必要ないなと。

【井上】人って、なかなか自分ごととして考えないですからね。

【養老】意識って、根本的に矛盾を抱えていて、自分のことを言及するとおかしくなるんです。それは論理的に解けないでしょ。自己言及の矛盾というやつです。

僕はむしろね、AI社会の脅威を論ずるなら、まずはコンピュータのモチベーションが聞きたいですよ。

【井上】コンピュータを扱う研究者が、なぜそういう研究をするのか?

【養老】いやいや、コンピュータ自身の。そっち側がどういうモチベーションを持つかという(笑)。

【井上】ああ、そういうことですか(笑)。

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