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知られざる住宅価格の謎…なぜ住宅メーカーが違うだけでこれほど「坪単価」に差が?

屋敷康蔵(一般社団法人建物災害調査協会理事)

2020年11月12日 公開 2022年02月25日 更新

 

高価格の住宅メーカーには、さらなる理由が……

住宅メーカーの坪単価の違いは「人件費」にあることを述べましたが、そこで働く「人数」の違いも大きく関係しています。坪単価の高い住宅メーカーとローコストメーカーでは、年間の着工・完工棟数にさほどの差はありません。

ですが、坪単価の高い住宅メーカーのスタッフの人数は、ローコストメーカーの2倍、あるいは3倍も多くいます。

住宅メーカー内の役割分担は、大きく4つに分類できます。それは「営業」「設計」「施工」「事務」。これらが一体となり業務をこなすのが一般的です。

 

【営業】
営業マンはどこのメーカーもやることは同じです。展示場の接客からプランの提案、融資の手続きから契約までを業務とします。

【設計】
ローコストメーカーでは、営業マンが単独でお客様と図面やプランの打ち合わせを、かなりの段階まで詰めて打ち合わせをします。大体のところの話し合いができたら、ようやくその図面は設計部に回されます。

これが大手メーカーになると、設計部門に「営業設計」なる設計士が存在します。つまり、営業マンとお客様の図面やプランの打ち合わせに同席してくれる設計士がいるのです。営業マンとしてもこれは心強い味方です。

設計士が同席してお客様と直接打ち合わせをしてくれるので、決まったプランも一発OKという流れができますから。

そして、今度はその図面を実務や申請業務専門の設計が引き継ぎます。大手になると、設計も「営業設計」と「事務設計」という2種類の設計士が存在します。そして、驚くべきことに「税務担当」なんていう、住宅の税金関連のスペシャリストが同席するメーカーもあります。

さらに住宅の外観デザインを担当し、アドバイスする「デザイナー」なんていう人が付くメーカーもあります。さすが大手のメーカーは至れり尽くせりですね。

お客様と設計の間を、パタパタ右往左往するローコストメーカーの営業マンに対して、大手メーカーのこのスマートさ……。坪単価が高くなってしまうのも納得です。

【施工】
現場監督の仕事量も、ローコストメーカーと大手メーカーではかなり違います。ローコストメーカーの現場監督は、現場管理はもちろんのこと、お客様との「仕様打ち合わせ」も同時に行います。

仕様打ち合わせとは、お客様がショールームでキッチンやトイレ、お風呂や外壁やクロス、床材や建具など、注文住宅の醍醐味でもある住宅の仕様を決める作業のことをいいます。

現場の合間に事務所に戻り、ショールームでお客様との打ち合わせもしなくてはならないのですから、複数の現場を抱えている現場監督は大変です。現場監督ですから、打ち合わせには作業着で首にタオルを巻いて……といった感じにもなります。

それに対して大手メーカーの仕様打ち合わせには、「コーディネーター」と呼ばれる女性スタッフが付いて、女性目線で打ち合わせに同席してくれます。お客様のほうも安心して任せられます。

とにかく、ローコストメーカーの現場監督の業務は過酷です。基本的にお客様のほとんどが、仕様打ち合わせは「土日の休みに、家族全員で」とご希望されるため、平日は現場で監督業務をこなして、土日はショールームでお客様の仕様打ち合わせに同席と、休みなしです。

【事務】
最後は事務職です。事務職といっても住宅メーカーの事務員は非常にやることが多くて多忙です。ここでも分かりやすく、ローコストメーカーと大手メーカーを比べながらお話ーコストメーカーの事務職は、基本的に入り口の受付に座って待機しています。

そこを拠点にお客様が来ればお茶を出し、営業事務作業や工事事務作業、お子様連れが来ればお子様対応(お子様と遊んであげる)など、かなり幅広い能力がないと務まりません。大体、どこの営業所でも女性事務員は1人でこれらすべての業務をこなしています。

そして大手メーカーの事務職というと……、まず受付業務だけを行う女性がいます。そして、事務作業も営業をサポートする「営業事務」と、工事関連をサポートする「工事事務」が存在します。

お茶出しも事務員が片手間にやる仕事ではなく、お茶出し専門の女性が配置され、まるでウェイトレスのようにお客様の飲み物の残量に常に目を光らせて、「正の字」を書いてお客様に出したおかわりの回数までをも把握しています。

ローコストメーカーのお客様みたいに、「おかわりくださぁ〜い!」などと叫ばれることもなく、言われる前にスッと飲み物を差し出します。


いかがでしたでしょうか? ローコストメーカーでは1人でこなす業務も、大手メーカーになると、これだけ分業化されて専属の人間が配置されているわけです。たとえ建物のスペックが同じだとしても、同等の坪単価で提供できるはずがありませんよね。

従業員を1人雇うのに莫大な経費がかかるのはご存じのとおり。企業もボランティアではありません、それはすべて「坪単価」に反映されるということもお忘れなく。

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