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生き方

「私ってダメよね?」…他人を困らせる“難問”ばかり投げてくる人の心理

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年02月18日 公開 2024年12月16日 更新

「私ってダメよね?」…他人を困らせる“難問”ばかり投げてくる人の心理

他人との会話のなかで、自分の「ダメ」な部分を確認しようとする人がいる。「そんなことはない」と励ましても、ますます自分を卑下させる方向に会話を運んでしまう。

こうした行動は、恋人の片方が別れ話を持ち出す流れと似ている、と加藤諦三氏は分析する。相手の気を引くために、あえてイラつかせたり、困らせるような言動をしてしまうという。

同氏の著書『「やさしさ」と「冷たさ」の心理』では、なぜか他人に“難問”を投げかけてしまう人の心理を解説している。

※本稿は、加藤諦三(著)『「やさしさ」と「冷たさ」の心理』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

自分を「ダメ人間」と確認する不思議な心理

「他人のなかに不快な感情をひき起こすことで、自分はダメな人間であることを確認しようとする」

──こんな文を読んだら、たいていの人は、そんな馬鹿なと思うに違いない。私もはじめ、このような文を読んだ時、そんな馬鹿なことがあるかと思った。

このような文は、交流分析といわれるような本を読んでいるとよく出てくる。そんな馬鹿なことがあるかと思いつつも、妙に気になる文であった。

そんな文を読んでから、自分の心のなかを反省したり、他人の言動をじいっと観察したりしていると、どうもそれらの内容は必ずしも馬鹿馬鹿しいことではないような気がしてきた。

まずはじめに、「そういえば」と思い出したのは、昔テレビで人生相談のようなことをしていた時、相談者として登場してきた人のことだった。

就職口がみつからないといって相談してきたのである。たしか解答者が五、六人いたと思う。その相談者は若い女性であった。ちょっと見たところ、そんなに働き口がないというような気がしなかった。

別に健康状態にそれほど問題があるわけではない、1日8時間働くのが辛いというようなことでは全くない。外から見ていると、ごく普通のお嬢さんなのである。

ところが、どこにいっても面接で駄目になるということであった。そこにいた5、6人の解答者は私も含めて、「そんなことはない」と励ました。

皆が言うことは、「一人でそんなように思い込んでいるだけではないか」ということだった。聞いていくと、会社で普通の事務をとる能力はみなそなわっている。しかし、彼女は、「誰一人として雇ってくれない」と主張するのである。

いろいろと話し合っているうちに、多少皆イライラしはじめた。すると彼女は、たしか次のようなことを言い出した。

「あなた達だって、もし経営者だったら私を雇わないでしょう」

2、3人の人が、「そんなことはない」と言った。すでにその時までに、何人かの解答者は、彼女のあまりにしつこい「私は駄目な人間なんです」にまいっていた。私は黙って見ているほうだった。一体この人は何を言おうとしているのか、とさぐろうとして、やりとりを聞いていたのである。

何人かの残された解答者は、「私は必要だったらあなたを雇うと思いますよ」と言った。すると彼女は、「それはウソですよ」と反論した。テレビだからそんなことを言っているだけだ、と言うのである。

ある女性の解答者が、ついに業を煮やして、「あなたはまるで私達に雇わないって、なんとか言わそうとしているみたいね」と言い出した。彼女はあきらかに解答者を困らせているようであった。

すると、彼女は「やっぱり、私をそんなふうに見ているんじゃないですか」と言って、女性解答者にからんだ。

何をどう言っても駄目なので、遂にある解答者が、「正直言って私も雇わないわ」と言った。すると彼女は、勝ち誇ったように、「だから私の言っている通りなんです」と言う。

結局、そこにいた解答者全員に、「私はあなたを雇わない」と言わせたのである。そのテレビにはたしか一年くらい参加していたが、彼女はよく記憶している相談者の一人である。

全員がなんとなく不快な感情におそわれて、やり切れない雰囲気が流れた。そして相談者は、私は誰にも雇ってもらえない駄目な人間であることを確認したようである。

 

できることも「できない」と確認する不思議な心理

さらにもっとハッキリとした例を思い出した。私の研究室に相談にきた学生のことである。3年生であった。まず、4年生で卒業できないというのである。そこで、単位のとり方などを聞いてみると、これから一年頑張れば、4年で卒業できそうなのである。

私は「頑張れば4年で卒業できるじゃないか」と言った。すると、「私はそんな勉強ばかりの大学生活は送りたくない」と言うのである。「それでは五年で卒業するしかないじゃないか」と言ったら、「それはできない」と言う。

「なぜ?」
「親に言えないから」

親にはどうしても言えないし、仕送りがなければ大学生活はムリだという。

「それなら4年で卒業するように努力しろよ」
「だから、そういう勉強ばかりの大学生活はいやだって言ったじゃないですか」

これでは、全くお手上げである。困り果てて「これもいや、あれもできないじゃどうしようもないよ」と言った。その後のやりとりを正確に覚えていないのだが、最後のほうだけはよく記憶している。

「それじゃ、君は一体何を相談しにきたんだい」
「僕は先生が困ればそれでいいんです」

彼は終始、私のなかに不快な感情が起きてくるように挑発しつづけた。私がなかなか怒り出さないものだから、執拗に不快な感情を誘発しようと挑発しつづけた。私が最後まで怒らなかったので、彼はこのように言ったのである。

さらに、彼はこうも言った。
「先生が不愉快になれば、それでいいんです」

いろいろの相談にのっていると、本当に信じられないような自己嫌悪におちいっている人がいる。相手が自分を否定することをしつこく求めてくるのである。

これまた非常に不思議なことなのだが、それらの人は、自分にとって大切な人に自分を否定させようとしているような気がしてならないのである。そしてその人が、「お前は駄目だ」と言い、お互いにやり切れないほど不愉快になって、その接触は終る。

そして、彼らはそのような交流のたびごとに、自分は価値のない人間であるという感じ方を強めているようである。

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「別れ話」を持ち出す恋人の目的は、相手の気をひきとめるため

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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