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生き方

「私ってダメよね?」…他人を困らせる“難問”ばかり投げてくる人の心理

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年02月18日 公開 2023年07月26日 更新

加藤諦三

「別れ話」を持ち出す恋人の目的は、相手の気をひきとめるため

しかし、これらはよくよく考えてみると、別にそれほど例外的な人間関係ではない。恋愛がこわれていくのだって、このような別れ方というのは案外多いのではなかろうか。

恋人の一方が、かなりの難問を相手に投げかけるのである。どちらかといえばできないと分かっているようなことを、「やってくれ」と求める。

相手が今度の日曜は会社の旅行であるということが分かっていて、「ねえ、今度の日曜どこか行きたいんだけど、駄目かしら」と言い出す。相手の男性が困っているのを確かめて、「やっぱり駄目よね」と悲しそうにする。男はしかたなく黙りつづける。

それがスタートで、そのテーマをくり返しくり返し持ち出しては、一時間ぐらい同じことを話す。男が困ったことになったと思い悩んでいるのを見て、いったんは「いいわ」と言うが、決して話はそれで終らない。

相手の男性が、自分のはじめの一言で困るのを見て、どこか安心する。相手を困らせることで、自分の存在を確認しようとしているかのようである。

そのような人は、相手を困らせることが、相手の気をひく最も確実な方法であると信じている。どこかにマゾヒスティックな自己卑下がある。

もし、男性が簡単に「今度の日曜は駄目だよ」と言えば、「やっぱりあなたは私を愛していないんだ、あなたが愛してくれないなら私あなたと別れようかしら」と脅しをかけてくる。「それじゃ、別れようか」とでも言えば、今度は被害者の立場から相手の男性を支配しようとする。

「自分は愛されるに価しない人間だ」という感じ方が、心のなかに習慣となっていて、なかなか相手の愛を信じない。いったん恋愛が成り立つと、しつこく相手が自分を愛していると確認しようとする。

このタイプの人間は、相手を素直に愛することで愛されようとはしない。相手を困らせ不快にさせることを目的にして交流をはじめる。本人自身も自分の交流の目的を意識してはいない。

まともに相手になっていると、相手の自己否定のペースに巻き込まれ、会うたびごとに不愉快な気持になってしまう。しかし、恋愛している以上、たいていの人はまともに相手になる。そこで、相手の自己否定のペースに巻き込まれてしまう。そしていつも最後はケンカ別れとなる。

恋人同士がいつもケンカ別れをしているなどというのは、それほど例外的なことではないであろう。今度会ったら、愉快な気持ですごし、愉快に楽しく別れようと決心しながら、やはり不愉快な気持になってケンカ別れをすることになるなどという恋人同士だって、結構いるのではないだろうか。

どんなに一方が今度こそ楽しくと思ってみても、他方が自分の自己否定の構えを確認しようとしていると、ついついその不愉快な交流にまき込まれていく。

なかには毎度毎度同じテーマでケンカして、不愉快になっている恋人同士だっていよう。最悪のケースは会うたびに別れ話というやつである。

別れ話を出すほうも、出そうと思って出しているのではない。ところが、話しているうちにそうなってしまうのである。それは、おそらく別れ話を出すことが、最も相手の気をひくことだからであろう。

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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