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故郷・石巻を離れて葛藤する医師を救った「家族の一言」

及川貴生(たま耳鼻咽喉科理事長)&吉澤恵理(医療ジャーナリスト)

2021年03月25日 公開 2024年01月25日 更新

 

震災から10年、地方創生を目指す新たなスタート  

当時、及川氏は、周囲の上司や同僚が母校の大学病院近隣の後押しもあり、開業を控えていたが、地元にもどるべきか自身の今後のキャリアに思い悩んだ。しかし、家族の言葉に決断することができた。

「震災後に厳しい日々を送る家族を尻目に神奈川で独立していいのか?そう思い悩む私の気持ちを察したように家族からは、『こちらのことは大丈夫。お前は神奈川で頑張れ!!』その言葉で母校の近隣での開業を決意しました」

その独立には地元や家族を思う気持ちがあった。震災後には経済的な支援が絶対的に必要になると考え、及川氏は自身のクリニック経営を軌道に乗せ、家族への経済的支援を行うことにした。

「復興が困難を極める地元に暮らす家族のためにも私が経済的基盤を作らなくてはと考えることで前に進むことができました。しかし、その一方で家族に仕送りするだけでは何ら地元に貢献できていない自分に『このままでいいのか?』という気持ちがずっとありました」

震災から10年、石巻に戻るたびに石巻含めた地方の今後の医療・福祉の整備が必要だと強く感じるという。

「2030年には日本中が超高齢化時代をむかえます。被災地である地元石巻以外でも日本中の地方都市で同じ悩み・問題を抱えていくことになります。それを解決するために医療だけでなく飲食・宿泊・交通・行政を巻き込んだ仕組み(JV:ジョイントベンチャー)を作るべく自分にできることは何でもやっていきたいと考えています」 

地元の被災地である石巻を含めた地方を中心に地方創生を目指す10年目の春。及川氏にとって新たな挑戦のスタートとなる。

【吉澤恵理(よしざわ・えり/薬剤師、医療ジャーナリスト】
1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業(現、東北医科薬科大学)。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

 

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