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JR東日本やJAXA…“50社超”の新規事業に参画したプロに聞く「社内起業成功のコツ」

守屋実(新規事業立ち上げプロフェッショナル)

2021年05月24日 公開 2021年05月26日 更新

JR東日本やJAXA…“50社超”の新規事業に参画したプロに聞く「社内起業成功のコツ」

起業や企業の新規事業創出支援を専門とし、「新規事業家」として知られる守屋実さん。

新卒で入社した機械部品専門商社のミスミ(現・ミスミグループ本社)で新規事業部に配属されて以来、30年以上一貫して新規事業の立ち上げを手掛けてきました。

これまでに50社以上の新規事業に参画、また4年連続4社の上場を果たし、今月10日には、『起業は意志が10割』を講談社から上梓しました。そんな新規事業のプロに、社内起業のコツを伺います。(聞き手:中村優子)

 

ラクスル、博報堂、JR東日本…数々の"新規事業"に携わる

――守屋さんは新規事業家とのことですが、これまでどんなことをされてきたのですか?

【守屋】ミスミと、その後ミスミの創業者で当時社長だった田口弘さんと共に立ち上げたエムアウトという起業専業企業時代合わせて17回の社内起業に携わりました。会社員時代20年、その後独立して10年ひたすら新規事業ばかりやっています。

独立後はネット印刷のラクスルの立上げに参画したのを皮切りに、直近は4年連続で4社の上場に関わっています。また、ベンチャー企業の立ち上げのほか、博報堂、JR東日本など老舗企業の新規事業アドバイザーや宇宙航空研究開発機構(JAXA)の上席プロデューサーをしています。

――ということは、JAXAの社員でもいらっしゃるのですね?もともと宇宙にお詳しかったのでしょうか?

【守屋】そうです。立場上は招聘職員です。とはいえ、おそらく職員の中で最も宇宙のことを知らないと思います。笑。

でもだからこそ「一般人が宇宙に行く未来」についてリアリティを持って想像できると思っています。

僕はJAXAで「宇宙を楽しむ(宇宙旅行、ARやVR、衣食住)」部門の事業創出に関わっているのですが、これまでは厳しい訓練を受け、お風呂にも入れない、ご飯も限られている。トイレも簡単に行けない。そんな状況に文句を言わない屈強な宇宙飛行士のみが宇宙空間に行けましたが、これからはそうじゃない。

僕を含む「一般人」が宇宙に行く時代です。そうなるとシャワーも入りたいし、美味しいものも食べたい。そういうこれまでになかったニーズが出てくるはずです。その顧客ニーズに応える事業開発に取り組んでいます。

これから宇宙市場には本格的な「顧客」が出現します。その波に真っ先に日本のJAXAが乗り、存在感を見せられたらいいなと思っています。皆さんも期待していて下さい。

 

社内起業で成功する「人」と「コツ」

――今後のニュースが楽しみです。守屋さんは、このJAXAをはじめ、JR東日本の無人コンビニなど、多くの新規起業へ携わってこられましたが、社内起業で成功するのはどういう人だと思いますか?

【守屋】色々な要素がありますが、会社員でありながらも、「自分ゴト」として事業開発に取り組める人ですね。社内起業は「上司に言われたから始めた」という人が多いと思います。スタートはそれでもいいのですが、必ず「自分ゴト」として欲しいですね。

また、そういう人をアサインできる上司、経営者側の慧眼も必要です。書籍の中でも書いていますが、僕は「起業でも新規事業でも意志が全て」だと思っていますし、実際そうです。

頭の中で考えた事業構想や事業計画の通り進むものなどほぼないと言っても言い過ぎではない。トラブルの連続だと思います。そんな中で上司に言われたからという芯のない脆弱な意志であったり、借り物の意志であってはとても乗り越えることはできません。

荒削りでもいいので、挑戦したいという絶対的な熱量、意志が全ての始まりだと思います。

――なるほど。では意志以外で、社内起業で成功するコツは何ですか?

【守屋】まず、新規事業と既存事業は別物であることを理解する必要があります。

大企業や歴史の長い中堅企業の多くが、新規事業を既存事業と同じ評価軸で捉えてしまいがちです。しかし新規事業は既存事業に比べて成果が出るまで時間がかかりますし、初期の段階で軌道に乗せるためには既存事業よりも素早い意思決定や、資本の投入が求められます。

それを既存事業とおなじ評価軸で議論してしまったら、せっかくの種も芽が出ずに枯れてしまうんですね。ですから経営者・決裁者側があらかじめ新規事業と既存事業とは別物であることを認識しておく必要があります。

次に、事業責任者が自由に動ける環境整備が大切です。担当者が新規事業をやる暇がないほどに社内対応が大変という事例もよく見かけます。新規事業開発にアサインされた社員が社内のコンセンサスに捉われて身動きが取りづらくなるのは絶対避けなくてはいけない。

資本投下のタイミングや施策の意思決定などは、状況が理解できていない上司に左右されずに、事業の責任者判断である程度決裁できるよう環境を整備することが求められます。

もう一つあげるとすると、大企業では年度が変わると人事が刷新され、なにもかもがリセットされるという弊害がよく起こります。せっかく1年かけて積み上げてきたものが年度をまたいだせいで担当役員が変わり、振り出しに戻るということも少なくありません。

やはりここでも新規事業は本業の人事制度の影響を受けず、またある程度独立させておくことが大切です。

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JR東日本の新規事業はなぜ成功したか

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