「強い思いだけ」で退職、起業してしまった若者は成功したのか?
2021年05月25日 公開 2021年07月12日 更新
起業や企業の新規事業創出支援を専門とし、「新規事業家」として知られる守屋実さん。新卒で入社した機械部品専門商社のミスミ(現・ミスミグループ本社)で新規事業部に配属されて以来、30年以上一貫して新規事業の立ち上げを手掛けてきました。
これまでに50社以上の新規事業に参画、また4年連続4社の上場を果たし、今月10日には、『起業は意志が10割』を講談社から上梓しました。そんな新規事業のプロに、起業のコツを伺います。(聞き手:中村優子)
困難にぶつかっても独立起業に"成功する人"
――前回は企業内起業について伺いました。今回は独立起業について伺わせてください。会社を辞めて、自らの責任で事業を始めるのは大きな挑戦だと思います。
実際10年生き残るのは10%程度という数字もあります。ですので、まずは、どういう人が独立起業に向いているか教えていただけますか?
【守屋】確かに生き残るのは簡単ではないです。綿密に計画を立てて事業に臨めばいいかというと、そうではないと思います。大切なのは「その事業を本当にやりたいのか」という意志の強さに尽きると思います。
拙著のタイトルにも採用してもらいましたが、起業でもっとも重要なことは「意志が10割」なんです。もちろん走り出したあとは、人だったりお金だったり他の要素も大切になってきます。
――実際に「強い意志」で起業された人はいらっしゃいますか?
【守屋】いま生き残っている方は、始めるにあたっての意志が強かったので今があると思っています。
挙げたい人は多くいますが、今回は、ヴァルトジャパンという、障害を持った人と民間企業とを結ぶ会社の創業者、小野貴也さんを紹介させていただきたいと思います。
小野さんは、元々大手製薬会社でうつ病の治療薬の営業をしていたのですが、うつ病患者の互助会に参加した際に「自分の売っている薬では、この人たちを真に救うことはできない」と痛感したそうです。
なぜなら、精神疾患の患者さんの多くは薬を飲んでいる間こそ症状は安定しますが、やめたら再発してしまうことが多いんですね。
なので、みなさんの共通の課題として、仕事、職場での「達成感」や「いい思い」の体験が圧倒的に少ない。だったら「成功体験」を渡すことこそが一番の治療なのではないか。と小野さんは思ったそうです。その思いが長じて、会社を辞め、起業しました。
――それは思い切ったチャレンジですね。事業はうまくいきましたか?
もちろん、ビジネス経験のない若者の起業であり、かつ、はじめから勝算を見込んでの起業ではありませんでした。単に、社会的意義に突き動かされての起業だったので、そう簡単にうまくいきません。
小野さんは自身で全国の就労支援事業所に電話し人材を確保し、同時に民間企業にもアプローチして仕事の受注を取り付けながら、少しずつ人と企業をマッチングさせていきました。もちろん初年度は赤字でした。
また、初めのうちは納品する商品のクオリティーにムラがあることもしばしば。うまく納品できない場合は小野さん自身が手を動かし埋め合わせたりもしていました。
そこまでできるぐらいの「揺るぎない意志」・「自分が社会を変えるんだという強い意志」がある人はたとえ困難にぶつかってもそうそう折れない。独立起業というリスク・ストレスにも耐えられると思います。
現在、日本ではヴァルトジャパンと同様のビジネス形態を持つ事業者は、国と某N P O団体とヴァルトジャパンの3つしかありません。全シェアのうち9割をヴァルトジャパンが占めるようになりました。
コロナ禍の起業がチャンスな理由
――社会的に意義ある起業ですよね。私自身も応援したくなります。守屋さんはコロナ禍でも起業はできるという意見ですがもう少し詳しく教えてください。
【守屋】起業において「不」という概念が必要です。不便の不です。不便なところに起業の機会があるということです。
コロナ禍の現状というのは、不が大量に発生している状態と言えます。例えば食事のこと。首都圏では外食を控えざるを得ない状況が続いていますが、人の胃袋の数は変わりませんよね。
とすると、その空腹を満たす、不を解決する術を世の中に提供できれば生き残れます。ピンチこそまさにチャンスであり、商機なのです。ここが2番目のハードル。もちろん1番目は強い意志です。
――例えばどんなことが挙げられるでしょうか?
【守屋】これまで中々構造を変えられなかった業界が一気に変化を強いられました。
例えば、オンラインでの営業活動は格段に浸透しています。以前は、オンラインでの打ち合わせを拒んでいた人たちが大勢いましたが、今はオンラインが普及しつつあります。そのおかげで一気に営業効率が上がりました。
私の参画している中で、介護施設向けの商材を扱う企業があるのですが、コロナ前は全国の介護施設に営業しようにも、一日せいぜい2ヶ所しか行けなかった上に、どのようなやりとりをしたのか、担当者の報告を信じるしかありませんでした。
しかしオンラインになったことで、やりとりをみんなで見て、その場でどうすればよかったかすぐにフィードバックできるようになり、学びが高速化しました。去年半年間で売り上げが前年比800%も伸びたところもあります。