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社会

在宅医療の専門医が忘れられない「自分らしく生きた人の穏やかな最期」

中村明澄(在宅医療専門医)

2021年06月04日 公開 2021年07月09日 更新

 

逝き方にも正解はない

――病は気からとも言いますしね。ではなにか、自分らしく最期を過ごされた在宅死の実例などはありますか?

【中村】今から10年ほど前、私が初めて自然死で看取った方がまさにそうです。旅行が大好きで、娘さんと一緒に世界中を旅してきたB美さんは、当時89歳でした。

「好きな人生を好き放題歩んできたから、これからも自分の身体に起きたことに関しては、好きなようにやらせて」というのがB美さんの第一声でした。

「もちろん、治るものはサクッと治してもらうのがいいけれど、つらい検査を受けたり、入院するようなことはしたくないし、延命もしたくない」という意思がはじめからとても明確だったんです。

徐々に歩けなくなり、その症状から神経難病の可能性がありました。病院での検査をおすすめしましたが、お返事はやはりNO。

動けなくなって1年が過ぎ、飲み物を飲み込むのも難しくなっても彼女はブレず、「このまま自然なかたちで死んでいくのが、私のわがままなんだから。それを叶えてちょうだいね」と。娘さんも、B美さんの意思を尊重して理解されていました。

亡くなっていく際には、せん妄といって、意識がちょっと混乱することもあるのですが、B美さんの場合はそれもなく痛みも苦しみもないまま、すっと寝ているような穏やかな最期を迎えることができました。

B美さんが、人生の終わり方にも自分らしいプランとはっきりしたポリシーをお持ちだったからこそ、叶えられた自然死であり平穏死です。自分の逝き方は積極的に選んでいい。そうした看取りをサポートしていこうと、強く背中を押された気がしています。

――逝き方を積極的に選ぶことが、納得できる最期につながるんですね。

【中村】どんな人も、自分や大切な人の死から逃れることはできません。ですから、その死とどう向き合うかを考えることは、生き方を選択するのと同じくらい大切なことだと思うのです。

生き方に正解がないように、逝き方にも正解はないと思います。それでも、一人ひとり、それぞれのベストな逝き方があるはずです。ご自分やご家族がどのような最期を望むのか、残りの人生をどう生きるのか。

この記事が自分らしい生き方・逝き方を考えるきっかけになるとともに、「在宅死」という選択肢を皆様に持っていただけいただけましたら幸いです。

 

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