在宅医療の専門医が忘れられない「自分らしく生きた人の穏やかな最期」
2021年06月04日 公開 2024年12月16日 更新
千葉県で在宅療養支援診療所を開業されている在宅医療専門医の中村明澄先生。年間100名以上の最期を看取る、終末医療のプロフェッショナルです。3月には大和書房から『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』を上梓しました。
そんな中村先生に、現在コロナ禍で面会できないこともあり、希望者が増えている在宅医療の基本についてお聞きします。
そもそも在宅医療とは何か
――現在在宅医療の希望者が増加しているとのことですが、在宅医療は誰でも受けられるのでしょうか?
【中村】在宅医療が対象となるのは主に「通院することが難しい方」です。寝たきりの方だけでなく、足腰が悪くて階段を登ったりすることが困難だったり、また認知症などがあり、待合室でじっと座って待つことが難しいといった方、体の機能が低下し始めてから亡くなるまでが非常に短いがん終末期の方などが対象となります。
また、入院中の方が退院後に通院することが難しいときにも対象となります。例えば入院しているけれど、悩みに悩んで「やっぱり家に帰りたい」と意向がまとまることもあります。
十分な準備をして退院したいところではありますが、残された時間が少ない時はこの願いを叶えることを優先し、即日退院手続きをとって、その日に在宅医療の初診に入ることもあります。
「自宅で療養したい」「自宅で最期を迎えたい」という希望をなんとか叶えていこうというのが、いまの在宅医療です。
家族の負担が大きくなるわけではない
――在宅医療と聞くと、お金がかかったり、家族側に負担がかかるイメージがあるのですが、実際のところどうですか?
【中村】まず金銭面に関してお答えしますね。外来への通院と比較するとかなり高額に感じる訪問診療ですが、病院までのタクシー代や付き添いの費用がかからなくなりますし、あちこちでの待ち時間がかからなくなることを考えると、施設入所や入院と比較してもそれほど負担は大きくありません。
次に家族の負担に関してですが、たしかに食事の用意や服薬の補助など、病院でスタッフが行う日常のケアをご家族も担っていただくことが多くなります。
おむつ交換や食事の補助をするのは、いろいろな思いがこみ上げてきてつらくなったりもするでしょうし、毎日のことですから、やはり身体的にも負担がかかります。
それでもやっぱり自宅で最期まで一緒に過ごしたい…そうした家族の思いを身体的にも精神的にもサポートするのも私たち在宅医療に関わるものの役割です。
ご本人の「こうしたい」はもちろん大切ですが、ご家族が自分を犠牲にしなくてはならない状況では、最終的にお互いが苦しくなってしまいます。ですから、在宅医療や介護保険サービスを頼って、お世話する側も無理をしすぎない環境を作っていくことが大切です。
なお、在宅医療がスタートしたからといって、家での検査や治療だけになってしまうわけではありません。病院での検査や治療が必要な場合、またご本人やご家族が入院を希望した場合など、状況に応じて在宅医から地域の病院と連絡を取り、受診してもらうこともありますし、年に1回など定期的に病院への通院を継続することもあります。
――状況に合わせて柔軟に対応していけるんですね。中村先生から見て、在宅医療の一番のメリットはなんだと思いますか?
【中村】なんといっても、自由に過ごせることです。自宅など住み慣れた環境で、自分らしい生活を送れるわけですから、病院で感じるような息苦しさもありません。
会いたい人には来てもらえばいつでも会えますし、決まった起床時間も就寝時間もありません。食べたいものが自由に食べられるのも、在宅ならではのメリットです。
自分の空間で自分らしい生活を大切にしたい方にとっては、入院している時よりも気持ちが元気になって、精神的にも安定する方が多い気がします。科学的根拠はないですが、結果的に医師より伝えられた余命より長生きできる方も少なくないように感じています。