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「猫がいるから入院できない」独居男性の最期の願いに医師はどう応えたか?

中村明澄(在宅医療専門医)

2021年06月07日 公開 2021年07月09日 更新

「猫がいるから入院できない」独居男性の最期の願いに医師はどう応えたか?

千葉県で在宅療養支援診療所を開業されている在宅医療専門医の中村明澄先生。年間100名以上の最期を看取る、終末医療のプロフェッショナルです。3月には大和書房から、『「在宅死」という選択〜納得できる最期のために』を上梓しました。

そんな中村先生に、ひとり暮らし方の在宅死・在宅医療事情についてお聞きします。

 

「ひとり暮らしでの在宅死」は孤独死ではない

――在宅医療は、ひとり暮らしの方でも選択できるのでしょうか?

【中村】ご本人の希望があり、小さな不自由を許容できれば、十分に可能です。小さな不自由というのは、たとえば「おむつが濡れて気になる」「何か物を取りたい」「背中のシーツのズレを直したい」といったことに対して、すぐの対応が難しくなることです。

こうした不自由さがまったく気にならず、やっぱり住み慣れた家がどこよりも安心で心地いい、という人には在宅はもってこいだと思います。それに、病院や施設にいても、ご家族が同居していたとしても、患者さん本人のタイミングに100%合わせてもらえるとは限らないのも現実です。

在宅のデメリットをできるだけ最小にするべく、枕元の手の届くところに必要なものを全て揃えるなどして、自分だけのコックピットをつくってしまうというのもアリです。少しの不自由さを受け入れられれば、おひとり暮らしでも十分療養生活は可能です。

――ですが、ひとり暮らしでの在宅死は孤独死とは違うのですか?

【中村】ひとり暮らしの方の在宅死と孤独死は別ものです。ひとり暮らしで最期を迎える場合、介護士や看護師などが訪問中に息を引き取ることもあれば、おひとりで亡くなって、翌朝に訪問した看護師や介護士が見つけるという場合もあります。

ただ、いずれにしても在宅ケアに携わってきたチームみんなで支え見守った最期ですから、たとえおひとりのときに逝ったとしても、孤独死ではないのです。

なお、ひとり暮らしの方がおひとりの時に亡くなった場合でも、在宅医が関わっていて、老衰や末期がんなど死に至る病気の経過があり、その病気で亡くなったことが明らかであれば、在宅医は死亡診断書を発行できるため、ご自宅に警察が来ることもありません。

おひとりさまであっても、暮らし慣れた場所で、安心して穏やかな最期を迎えることができます。

――では実際、ひとり暮らしの方で在宅死を選択された方はいらっしゃるのでしょうか?

【中村】実をいうと、完全なひとり暮らしでそのまま最期をご自宅で看取った方は、まだお二人しかいらっしゃいません。

私がかかわってきたおひとりさまは、最終的にはご家族が一時的に同居されてご自宅で最期まで過ごされるか、離れて暮らしているご家族の希望で最後は病院か施設に入ることが多い現状があります。

先ほど申し上げた通り、ご本人の希望があり、小さな不自由を許容できればひとり暮らしの在宅医療は十分に可能です。ですがそのためには、ご本人の希望について、ご家族の理解を得ることが鍵となります。

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「猫を置いてはどこにも行かない」

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