パートナーシップ制度を導入する自治体や民間企業が増え、意識調査などでも理解や共感が広がっていることがわかる近年。一方で、まだまだ偏見や不平等が根強いのも現実です。
誰もが被害者にも加害者にも傍観者にもならないために、一人ひとりが考えたいこと。本稿では、「結婚の自由をすべての人に」訴訟に九州から参加しているこうぞうさんにお話をうかがいました。(取材・文:編集部、協力:森あい[阿蘇法律事務所])
※本稿は『PHPスペシャル』2021年5月号より内容を一部抜粋・編集したものです。
パートナーシップ制度に法的効力はない
僕とパートナーのゆうたは、熊本市のパートナーシップ制度で証明書を交付されています。内容は自治体によってさまざまですが、制度がある市町村は100を超え、人口でいえば3分の1以上の人が使えるようになっています(2021年6月1日現在)。
ただ、パートナーシップ制度に法的効力はないため、法定相続人にはなれません。どちらかが入院した場合などに家族として扱われるとはかぎりません。
また、婚姻届は365日いつでも出せるのに、パートナーシップ制度は行政の窓口が開いているときだけ。とうてい「結婚と同じようなもの」とは言えません。
一方で、自分が住んでいる街では好きな人との関係が公的に定められることは、制度としてのみならず精神的にも当事者をエンパワーしてくれる効果があると思っています。
また、なかなか同性婚の実現に向けて動く気配のない国に対して、行政や民間企業、社会の理解が進んでいくことが原動力になるのではないかと思います。
ゆうたとは一昨年に再会して一緒に暮らすようになったのですが、18、19歳の頃にもつきあっていました。当時から同性婚について二人で話したりはしていましたが、「日本で実現するのはずっと先の話だろうね」と言っていたんですよね。
それから20年近く経った2019年に、同性婚の法制化を求める裁判が全国5都市で始まった。その流れで、僕らにも原告になりませんかというお誘いがありました。
僕は以前から「くまにじ」という熊本のLGBTQ支援のグループで活動していたのですが、ゆうたは、自分の考えや信念は確固たるものを持っているんですけれども、対外的な発信には関心がなかった。
どう判断するかなと思いながら「こういう話が来てるんだけど」と相談したら、少し考えてから、やろう、と。社会全体で味方が増えているとはいえ、顔や名前を出して、インターネットの記事にもなれば誹謗中傷の声も上がってくるだろう。
そういうことも踏まえたうえで、自分たちが同性愛者の可視化に寄与できるのであればという使命感もあって、参加を決めました。なにより自分たちの希望として、結婚したいですし。
「どうして〈結婚〉にこだわるの?」
同性婚訴訟というのは「同性婚を認めないのは憲法違反だとして国に損害賠償を求める訴訟」です。そう聞いて「金目当てか」などと言う人もいます。
でも、僕も原告になるまで知らなかったんですが、今の日本の裁判の形式上、「この状況が違憲かどうか判断してください」とだけ訴えることはできず、具体的な請求、つまり同性婚ができないことによる損害賠償を請求するという形をとらざるをえません。
現行の憲法で同性婚はできてしかるべきだと、なのにできないのは憲法に違反している、というのが主眼です。ですから、憲法を改正しろという話でもありません。
同性婚をダシに改憲の話をしようとする人もいますが、そもそも国は「同性婚は違憲」とは一度も明言していません。「想定されていない」と繰り返すばかりです。
ちゃんとした憲法の知識があれば、同性婚は違憲ではないと解釈するはずだから、同性婚が今の日本の憲法のままでは「できない」とは言えないんじゃないでしょうか。
3月の札幌地裁で「同性婚を認めていない現在の法律は憲法に違反する」という判決が出たことは画期的でした。
同性婚に対して「そもそも結婚制度がどうなの?」との意見もあります。たしかに、結婚をしない選択をする人が増えていたり、制度自体が時代に合っていないと言う人もいたり、それは僕ももっともだと思います。
「なんでそんなに結婚したいの?」と言う人もいますが、その大半は異性愛者の人のように思います。結婚そのものへの賛否はあるとしても、異性愛者なら結婚という選択ができる現状で、同性愛者には選択肢さえないのが問題なのであって、僕たちは「結婚=いいもの」という話をしているわけではありません。
同性婚も認めないような状況で、結婚制度を時代にふさわしいものに作り変えられるかというと、なかなか難しいのではないかと個人的には思っています。
「時代に合っていない」の中には、「同性で結婚できない」ことも含まれると思いますし。僕たちはまずそこから変えてほしい、同性同士では結婚できないという差別を放置しないでほしい、という立場です。