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すぐ忘れる…と落ち込まなくていい? 「人はマルチタスクが苦手」な生物学的根拠

石川幹人(明治大学教授)

2021年06月23日 公開 2022年03月07日 更新

 

人間はみな作業の中断が苦手

私たちは、外に出かけようとすると、多くの作業を並行して素早くこなさなければなりません。服を選んで着替える、化粧をして身なりを整える、持って行く荷物を整理するなどです。

そんなときに急な電話がかかってくる、訪問者が来る、子どもが騒ぐなど予期せぬ事態が起きたら、もう大変です。パニックになって外に出かけること自体を忘れかねません。

人間は一連の作業への割り込みが非常に不得手なのです。なぜなら、一連の作業に割り込みが起きると、作業を途中で止めて割り込みに対応するからです。その後、割り込みへの対処が終わったら、一連の作業に復帰しなければならないのですが、それを忘れてしまうのです。

コンピュータなら、作業途中の状態をそっくりメモリに記憶できるので大丈夫なのですが、人間の作業記憶は非常に貧弱です。2桁同士の掛け算も紙に書かないとできないのが、その証拠です。

それでも、人間はほかの動物に比べればかなり優秀です。ほかの動物は割り込みが起きたら、そちらの作業にスイッチするだけで元の作業へは戻りません。戻れないのです。人間は、ある程度時間を要するものの元の作業へ戻れるので、その分は優秀なんですね。

 

「マルチタスク」にはそもそも無理がある

でも、そのわずかな優秀さに期待するのは間違いです。現代社会では、仕事をいくつもかけ持ちしてテキパキとこなすことが理想とされてきましたが、それは人間の能力を過信した理想です。私たち自身にそんな過大な負荷をかけるのは、もうやめましょう。

最近では、約束した時間に遅れることは大目に見られるようになりましたね。幸いなことに、情報技術が支えになってきています。SNSを使えば約束通りに会議が開催できなくとも、時間差でディスカッションできます。メールを中心に作業していれば、急な割り込み作業の多くは後回しが簡単にきます。

テレワークが増えれば、外出に伴う作業も大幅に軽減できますね。人間の本性が適切に理解できれば、人間に過大な負荷をかけないように先端技術を利用することができます。

そうした配慮がきいた高度な文明社会になるのが理想ですね。私たち自身は大きくは変われません。今のままでいいのです。

 

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