経営陣にプログラミングがわかる人がいますか? 日本と世界の差を埋める“重要な素養”
2021年08月09日 公開 2022年01月13日 更新
ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。
こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『いまこそ知りたいDX戦略 自社のコアを再定義し、デジタル化する』(石角友愛(著)、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
デジタルは私たちに何をもたらすのか
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が流行し始めて3年ほど経ったでしょうか。以前から近い領域で、システム化や自動化を表す言葉として、BPR、RPAなどの様々なブームがありました。その中でもDXは影響力や浸透度が飛びぬけているようにも見えます。
今、日本において世界を導く地域との差が大きい領域がこのDXとも言えるでしょう。官公庁だけでなく、企業でも過去の成功体験が強力に残っているため、従業員数が多い大企業において、より顕著なようでもあります。
そんな状況下でのコロナ禍です。エッセンシャルワーカーを除き、リモートワークがほぼ強制的に導入され、紙やリアルである必要性を改めて考え直す機会となりました。ただ、DXとはそのような表面的な事象を指す言葉ではありません。印鑑や紙の稟議はわかりやすく変えられるところですが、それは始まりにすぎません。
DXのためのテクノロジーやデバイスは整っています。そして今後、取り組むべきDXの本質とは何か。本書がその謎を解き明かしてくれます。
デジタルトランスフォーメーションの好事例
本の中で取り上げられているモデルナの事例を見てみましょう。モデルナに関してはもう説明不要かもしれません。メッセンジャーRNAの技術を使って、新型コロナウイルスのワクチンを世界に先駆けて開発した会社です。日本でも大規模接種会場や職域接種で使われていることから、ワクチンを接種している人も多いはずです。
モデルナは普通の製薬会社とは少し異なります。自身を「生物学に携わるITカンパニー」と位置付けています。
以前のモデルナは、薬の開発に必要なゲノムシークエンスのデータをエクセルに手入力していたようです。手入力のデータが間違っていたら、全てのシークエンスに影響が及んでしまう状態でした。
そこで、すべてのデータをクラウドに移行して、散らばっていたデータを統合し、オートメーション化によりフルコントロールできるように舵を切りました。自社に優位性がない領域は市販のSaaSを利用し、コア領域のプロダクトは自社で設計・開発したといいます。
この市販のSaaSと自社開発のハイブリッドの構成は、参考になるのではないでしょうか。DXを推し進めたモデルナは、ワクチン開発の実績としてそのスピード感を世界に見せつけました。
「DXとは何か」を理解するために3つの言葉
では、DXとは何を表すのでしょうか。著者は3つの言葉を比較することで理解を促しています。
まず混同しやすいものがデジタイゼーションです。「ハンコのデジタル化」「手作業の自動化」「ペーパレス化」は、このデジタイゼーションに当てはまります。この程度がDX導入だと思っていない、という読者も多いかもしれません。
次の段階がデジタライゼーションです。本書で紹介されているガートナーの定義を見てみます。「デジタイゼーションされた情報やデジタル技術を活用し、作業の進め方を変え、顧客や企業の関与と相互作用の方法を変革し、新しいデジタル収益源を生み出すこと」だそうです。DXと呼べるかは自信がなくとも、ここまでいけば自社に合格点をあげたくなりそうです。
ではDXはそれらと何が違うのでしょうか。デジタライゼーションによる変革を恒久的なものにするために、人や組織に関する変革を指すのだそうです。人には、顧客、エンドユーザー、消費者、協力会社、社員などの広い範囲が該当します。その変革のためには、経営者が自ら舵を切って企業文化を変えることが求められます。
冒頭に挙げたモデルナの事例でも、ステファンCEOの明示的な推進力が発揮されています。全社に対して全体最適に向かう強烈なインセンティブを持つCEOの努力は必要不可欠なようです。