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生き方

教育熱心な家庭の子がなぜ“問題児”になるのか?

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年11月05日 公開 2023年07月26日 更新

 

いつまでも子離れできない心理

本当に子供を愛している親というのは、子供が離れていくことにそれほどの衝撃を受けない。愛しているから、その子を"所有"しなくても心理的に安定していられる。子供の幸せを喜ぶことができる。子供の幸せを自分の幸せとすることができるのである。

しかし一方、所有欲の強い親や、支配欲の強い親、ナルシシストの親などは、子供を"所有"していないかぎり、幸せにはなれない。支配していないかぎり、かわいがることができないのだ。こういう親にとって、子供をかわいがることと、子供を支配することは同じなのである。

またこんな親は、子供が自分とは関係のない世界で幸せである姿を見て、喜びを感じることができない。子供を愛している親なら、幸せそうな子供の姿を見れば、いつでも嬉しいものである。

だが所有欲や支配欲が強すぎたり、ナルシシスト傾向のある親などは、あくまで自分と関係のある世界で、子供が幸せでなければ面白くないのだ。

だから、子供が友達と旅行に出かけて嬉しいというのではだめで、子供が自分と旅行に出かけて喜んで、はじめて幸せになれる。自分の支配欲や所有欲が、子供との関係で満たされた時だけ、子供をかわいがる。

また、親はよく子供自身の潜在力を伸ばしてやりたいと言うが、実際には違う。ロロ・メイは、親は自分の息子や娘の自己実現は、あたかも自分の支配下にとどまっていることによってのみ、達成されるはずだというふうに振舞っていると指摘している。

要するに、親は口では子供の自主性を尊重するとか、子供の自己実現を支援するとか言いながら、実際には子供を服従させようとしているのである。

 

親の過干渉が問題児をつくる

次に、遊ぶことについての抑圧というものについて考えてみよう。遊びへの願望を抑圧している人は、大人になってもかなりいる。

これを聞いて、自分の子供は十分に遊ばせている、と言う人もいるかもしれない。だがこの場合、大切なのは遊びの意味である。親の目からは遊んでいるように見えても、本当の意味では遊んでいないということが多いのだ。

すなわち、子供が親を喜ばせようとしてする遊びは、本当の意味での遊びではない。それは心理的には親のお守りである。日本の親の中には、子供を遊ばしているようなつもりで、実は子供にお守りをされている人が多い。親の喜ぶ顔が見たくて子供がする木登りは、木登りという遊びとはいえない。

自分が木登りをしたほうが親を喜ばせることができるか、それとも家の中でおとなしくトランプ遊びをしていたほうがほめられるかということを子供が考えるようでは、何をしても真の遊びとはならない。

また、親が自分を連れて公園に行きたがっているのを知って、親に公園に連れて行ってもらっても、それは遊びではないのである。子供時代に十分遊んでいないことが、心理的に大人へと成長する時に障害になる。この場合、心理的成長に必要な遊びとは、真の意味の遊びなのである。

遊ぶ時は自分を忘れる、そのくらい遊んではじめて、心の成長を促す遊びといえる。子供なら遊び足りなくて不服そうな顔をすることができるだろう。遊べない不満を自覚することができる。

しかし大人だと、自分の不満がどこから出てきているのか理解できない。それが遊びの不足からくるものだとは気づかないのである。そこで、不満にもっともらしい理屈をつける。いつも不機嫌な人が、その原因を相手の態度に求めたりする。

恋愛をしていても、恋人が自分のことを束縛すると感じて不満になり、不機嫌になる。自分の不機嫌の原因を相手の態度に求めて相手を非難するが、実は本当の不満の原因は、小さい頃の遊びの不足からくることがあり得るのだ。

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。   

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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