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「大卒は隠すべきハンデ」平安時代から固定化してしまった“女性の役割”

2021年10月11日 公開

雀野日名子(作家)

雀野日名子

作家である雀野日名子さんは2007年に「あちん」で『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞され、2008年に同作でデビュー。以降、地方社会を一つの基軸にし、幾つも作品を展開しています。そんな雀野さんは今秋、河出書房新社より『かぐや姫、物語を書きかえろ!』を上梓し、書籍の発売に先立ちcakesにて書籍内容の全文公開を始めます。本取材では作家活動も今年で13年目を迎え、新しいジャンルに挑む境地についてお伺いしました。(取材:遠山怜)

 

主人公を男性から女性へ

――今回、上梓されるご本のあらすじを教えてください。

【雀野】この世は「物語の神」が創った「男性基準の物語」という設定のもと、一介の登場人物にすぎない2人の少女が物語をひっくり返そうと格闘します。

――「男性基準の物語」というのは、現代社会にもまだまだ通じるところがありますね。

【雀野】はい。ふたりが生まれた平安時代の『竹取物語』から、『源氏物語』『平家物語』『忠臣蔵』『舞姫』……と時代を移しつつ「物語の神」との闘いを続け、『蟹工船』で決定的な対決を迎えます。

――既存の著名な物語の主人公を女性に置き換えた場合、その物語の中で女性たちがどんな結末を迎えるのか、非常に気になります。ところで、今回はこれまで書かれてきたご本から新しいジャンルへの挑戦となりますが、今回の本の着想は、どういったところからきたのでしょうか。

【雀野】今回お世話になったアップルシード・エージェンシーの遠山さまから、昔話や古典の男女設定を逆転させた「とりかへばや」企画をご提案いただいたことがきっかけです。どの時代まで遡ろうかと歴史資料を調べたところ、男女の社会的格差が明確化してきたのは平安時代以降のようでした。

それに、日本最初の物語と言われる『かぐや姫』を「婚活でよく遭遇する何様な女」と批判する男性の声を少なからず耳にしていました。だから、ここを起点にしたストーリーにしようと考えました。

――「婚活でよく遭遇する何様な女」!古典と言えど、まさに平安時代から現代に通じる社会的格差は存在したのでしょう。

【雀野】ただ、男女逆転の物語というのは既に多く発表されていますし、女性の自分が読んで壁を感じることもありました。

男女逆転もののヒロインにはリーダー的な資質があったり、抜きん出た才能や男性なみの運動能力があったり、女性社会のなかでも非凡な存在として認められているというケースが少なくないように感じるからです。同窓会で誰もが覚えているタイプですね。

――確かに、男女逆転ものの女性主人公は「男に生まれていれば」と惜しまれるような、才気あふれるキャラクターであることが多いですね。

【雀野】ですから今回の主人公は、そうしたヒロインとは真逆の人物にしました。地味で気弱で自分に自信が無くて、世の中(男性主導の社会)に苦しさを感じていて、「こんな世の中、変わればいいのに」と思ってはいても、なんとなく流されて生きているだけ。卒業アルバムで「こんな子いたっけ?」と言われがちなタイプですね...

――誰しも、自分の身に置き換えやすいタイプの主人公かもしれません。

【雀野】ただしこの主人公は読書がとても好きなのです。書物というのは(活字であれ点字であれ音声であれ)、求める者に分け隔てなく「世界」を開いてくれ、教えを授けてくれる存在です。主人公にとっても、書物に与えられる様々なものが武器となっていきます。

そんなヒロインを「あんたなら出来る。私が保証する」と行動を起こさせる、もうひとりのヒロインも登場します。相棒であり姉妹であり分身であり、時には憎しみの相手でもあります。

 

女性の大卒は「隠すべきハンデ」

――これまでのジャンルから一変、今回のテーマを選んだ理由をお聞かせください。

【雀野】企画のご提案をいただいたのは、小説を書くことに見切りを付けた頃でした。もともと私には大した人生経験も専門性もあるわけでなく、身近な地方社会をテーマにしたものを書いていただけでしたし。それに、小説という表現方法に窮屈さを感じるようになっていたのです。

「こういうテーマはタブーだから書いてはいけない」「暗い気分にさせるものは書くべきではない」「タブーや暗い現実をテーマにしたければルポライターに職種替えしろ」と言われるようになりましたし、私自身もそのほうが良かろうと考えるようになっていたのです。

そんな時、ふとした機会からアップルシード・エージェンシーさんとご縁を得て、そこでこれまで出会ったことがない不思議なタイプのエージェントさんをご紹介され、奇妙なことに私の方向性とはどう考えても異なる企画、それも見切りをつけた「小説」の企画をご提案され……。

――それは、厄災でございましたね…。

【雀野】いえ、それが興味を惹かれたんです。文芸をご専門としている方ではないものの、想像の斜め上を行く感性をお持ちのクリエーターでいらっしゃる。私は映画が好きでよく鑑賞するんですが、演技一筋の俳優が分野違いのプロデューサーや共演者と組んだ結果、面白いものが生まれることがあるんです。そういう異種プロジェクトならやってみたいなと。

とはいえ書き始めると「やはり無理だ。この企画はお返ししよう」と痛感すること多々。けれども次第に「これは何としても書き上げねば」と執着心が出てきたのです。

これまで女性として受けてきた差別へのルサンチマンを吐き出したいからか、女性を理由に軽んじられることを「これが世間だ。仕方がない」と甘んじてきた自分が許せなくなったからか、そういう自分の二の舞を、若い世代の女性に演じてほしくないとの思いが湧いてきたからか……。

――女性として受けた差別と言いますと、どういったご経験があるのでしょうか。

【雀野】特定の誰かに対するルサンチマンというより、「女って何なんだろう」というモヤモヤとしたルサンチマンです。「女の子」のレールではなく「自分」のレールを自力で設計しようと頑張ってきた先輩や同級生が、社会に出たとたん「女だから」というレールに乗せられてしまう。

彼女たちがプロジェクトチームを組んで実績を出しても、昇進するのは同じチームの若手男性だけ。当時は「女性を昇進させたってどうせ結婚出産で辞める」という考えが普通だったからかもしれません(職種によりけりですが、産休育休後に復帰した女性に引き続きキャリアを積ませるという体制は、基本的に用意されていませんでした)。

私は猛烈に勉強してきたわけでも、バリキャリを目指していたわけでもありませんが、働いて資金を作って留学したいという思いはありました。けれども私の前にも「女」のレールが敷かれてしまいました。

「大学まで行ったのにまだ勉強したいだと?何を寝ぼけたことを言っている。次は結婚だろうが」で、ノルマのように周囲は縁談探し。生き方を決めるのは本人ではなく世間という、同調圧力の強い保守的な地方社会だったからかもしれませんが。

――地方ですと、まだまだ「結婚して子供を持つのが当たり前」という風潮が強いのかもしれません。

【雀野】私の暮らす地方では、子どもが生まれたら夫婦どちらかの実家に預けて共働きするのが一般的なんです。ですからお見合いをする前からお相手側は「嫁は実家に近いところで働かせて、なんだったら姉の子も一緒に預からせよう」などと家族会議を済ませてしまっていたりする。

私は見ず知らずの男性一家にとって便利な「嫁」になるために生まれたのか?と大変疑問に感じました。それを口にすると「女なんだから当然だろう。何を寝ぼけたことを言っている」と叱られるわけです。

まあ仕事一本でがんばりたい男性も「結婚して子どもを持たないと一人前とは認められならないぞ」と圧力をかけられていたようなので、似たようなものかもしれません。

お仲人さんに、学歴を偽るように言われたこともありました。現在ほど大学進学率が高くなかったうえに保守的な土地柄ということもあり、四大卒の女性は生意気で男性を馬鹿にするという偏見を持たれがちだったのです。どうして四年間学んだ経験を「隠すべきハンデ」と言われなくてはならないの?とますます疑問が募りました。

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