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くらし

「大卒は隠すべきハンデ」平安時代から固定化してしまった“女性の役割”

雀野日名子(作家)

2021年10月11日 公開

 

平安時代から変わらない「女のレール」

――作品のどの辺りで、「これが世間というもの」という姿勢が許せなくなってきたのでしょうか。

【雀野】平安時代~戦前の舞台設定なのに、現代女性の置かれている状況が、違和感なく当てはまってしまうんですね。しかも根本的な部分には、私が20年以上前に経験してきた理不尽さや、母親世代が甘んじざるを得なかった理不尽さが、そのまま残っている。

男性主導型社会という構造を女性が変えたくても変えるのが難しいからなのか、長らく社会を維持してきたこの構造を変えてしまうことを男性だけでなく女性も否定的に考えがちなのかは、分かりません。今回の物語では、女性を理由に軽んじられるヒロインは「これが世間というもの」と考えて生きています。

そういう設定にしたのは著者である私なのですが、だんだんもどかしくなってきて、「あなたヒロインのくせにそれでいいの?『世間』があなたを縛り付けているんじゃなくて、あなたが『世間の基準』に自縄自縛になっているだけじゃないの?」と。

昔の自分と重なって見えてしまったからかもしれません。中盤からは、ヒロインは自我に目覚めて暴走気味になりますが。

世間から「女のレール」を押しつけられることに、ことさら違和感を覚えるのは、10年以上物書きをしてきたからかもしれません。物書きの世界では能力による格差はあっても、性別による格差はあまり感じません。

女性を理由に原稿料や印税を安くされるとか、書店で男性作家の棚が女性作家の棚より有利な位置にあるとか、そういうのは(多分)ありません。

「女性らしい感性のものを」とか「母性が伝わるものを」という形で、男女の線引きをされることはありますが絶対的なものではなく、「女性ならではの感性で描く男性作家」も「男性にしか分からない世界を描く女性作家」も普通に受け入れられています。

 

これからの“女性”

――執筆中のエピソードなどあれば伺いたいです。

【雀野】完成までに時間がかかり、何度も期限延期をお願いするはめになりました。下調べに時間を要したこともありますが、ちょうどこの時期、女性親族へ長年DVを繰り返していた男性親族がとうとう警察のご厄介になる事態が発生し、対応できる身内が私だけということで、執筆時間と精神力を削られてしまったのです。

とはいえこういう経験も取材のひとつと考え、こうした機会がなければ接点を持つことのなかった機関に足を運びました。仰天の取材経験となったのが、役所の担当者に弁護士事務所に連れていかれた時のことでした。

私はDV被害者である女性親族の代理者として行ったのですが、人権派を謳うその男性弁護士いわく

「傷跡が消えればDVは不成立」
「叩く蹴るぐらいはDVに入らない。歯が折れたり骨折したりしていないのにどこがDVか」
「男が女にDVをするのは女が男を怒らせるからだ」
「男が稼いだ金は全部男のもの。嫁は扶養家族でも一円たりとも使う権利はない」等など。

法律でそう認められているそうなのです。

――とても現代で起きているとは思いがたい話ですが、このような話を聞くと日本はまだまだ男性主導型社会であると思い知らされます。

【雀野】男性主導型社会ではあっても、女性の発言力が強くなってきましたし、泣き寝入りせずに行動を起こす女性も増えてきました。だからこそ上記のような男性弁護士が登場するのだと思います。

DVは痴漢同様、基本的に被害者たる女性の言い分だけが通ってしまう。だから「けしからぬ女ども」から男性を守らなくてはならないということでしょう。痴漢は冤罪があるかもしれませんが、DVに冤罪はほぼ100%ないと思うんですが...。

男女共同参画室や女性相談室を設けている自治体が、片方ではこういう女性敵視の男性弁護士をアドバイザーとして置いている。そしてそういう弁護士とタッグを組んで被害女性を黙らせようとするのは女性職員...。「取材」で発見したこの合法的矛盾に疑問を感じ、物語に反映させたいと思い、また時間がかかってしまいました。

――女性問題(ひいては男性問題)も日々、あらゆるメディアで提起されるものの、今後どのように変わっていけるのか不透明です。

【雀野】そして最も悩んだのが、女子中学生が現代を考察するエピローグでした。今回のテーマの「未来形」がどうにも見えてこないのです。「女のくせに」と言われていた私は、今は「ババアのくせに」と言われる年齢域に入りました。

「ババア」と「ジジイ」は「中高年=老害」という同枠になり、そこに男女差はあまりありません。さらに年齢域が進めば、悩みも「腰痛・膝痛・尿もれ」と男女共通となり、最終段階では「バアちゃん」と「ジイちゃん」は見た目の区別も付きづらくなっていきます。

段々と「社会に定義された性」が消されていく自分には、現在進行形で「定義された性」と向き合わなくてはならない、現代の若い女性の「未来形」がぼんやりとしか見えてこない。そのためエージェントさんや編集者さんの意見を伺い、手探り状態で話を締めくくることとなりました。

――主人公たちのラストが非常に気になります!最後に、どんな方に読んでいただきたいですか?

【雀野】自分に自信が無くて、男性主導型の社会にモヤモヤを感じていて、「こんな世の中、変わればいいのに」と思ってはいるものの、自分は何もできない地味な凡人だと思いこみ、流されて日々を送っている「これからを生きる」人に、本作品を届けることができればと思います(戸籍上の性に関係なく、女性の立場にある人のほうが、読みやすく感じるかもしれません)。

最後のページを閉じた時に、「さあ、あなたもやってごらん」と背中を叩いてくれる、もうひとりの自分が現れていますように。

 

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