アマゾンを支える3本の柱
アマゾンの成功に大きく寄与したものの中で、始める際に否定的な意見が多かったのが、プライム、マーケットプレイス、AWSの3つだと言われています。
これら3つのサービスの開始時に出るだろう反対意見は容易に想像できます。例えばプライムであれば、配送費を無料にしてしまうとヘビーユーザだけが加入をして、大赤字になってしまうのではないか。マーケットプレイスを始めると、アマゾンが抱えている商品の在庫が売れず、外部にわざわざ売上を流すことになる。AWSはアマゾンの本業とは関係が弱く、競合による参入に耐えられない、というように。
経営者の大胆な意思決定について、「社運を賭けた大博打」と表現されることがあります。ただ、他の人にはそう見えることでも、実際に意思決定している本人は様々なシナリオを想定したうえで前に進んでいて、博打をしている感覚は全くないかもしれません。
経営者のほとんどは、大博打に失敗したら多くの人に迷惑がかかることは十分認識しています。博打をするのではなく、リスクケースを想定した手を打っておき、大胆に一歩を踏み出すという当たり前のことを行う必要があります。ジェフ・ベゾスはその想定できるリスクケースの幅が世の中の経営者よりもずっと広く、野心的な挑戦をし続けられているように見えます。
スティーブ・ジョブズとは対比的な考え方
世界的な投資家であるウォーレン・バフェットの有名な言葉に「ゆっくりお金持ちになりたい人はいない」というものがあります。つまりバフェットは、時間をかけてお金持ちになっている、とも理解できます。長期(ロングターム)がすべてと語ったベゾスが経営者として実践している考え方にも近いように思います。
スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクが、何をするかわからないエキサイティングな起業家だとすると、長期的思考が得意なジェフ・ベゾスはその対極に位置する人物に思えます。エキサイティングな奇襲攻撃はあまり行わず、偵察部隊を常に張り巡らせながら大軍をゆっくり動かして、着実に成果を収めるような戦い方をします。
そのようなジェフ・ベゾスが繰り返し語る言葉には、普遍的な教えが多く、本書『Invent & Wander』には、新しくもすでに古典が持っているような奥行きすら感じます。この本が向き合っているテーマは「どうすればアマゾンのような偉大な会社を高い確率で作ることができるか」でしょうか。
華やかではなくとも、最も尊敬する経営者として挙げられるにふさわしい人物、ジェフ・ベゾスの生の言葉に触れれば、これからの人生を少し賢く生きられそうです。