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生き方

「飲食店で大声でケチつける人」ほど甘えていると言える理由

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2022年06月10日 公開 2023年07月26日 更新

 

「自分の世界」ができれば人は強くなれる

甘えるということは、自分の世界がないということである。つまり人から「こう思ってもらいたい」という気持ちが強すぎる。甘えるということは、人から「こうされたい」という欲求のことであろう。自分が人に「こうしたい」ということではない。人から「こう思ってもらいたい」という自分が一方にいる。

しかし他人に「こう思ってもらいたい」ということを抜きにすれば、実際に「こうしたい」という自分は違う。その2つの自分が離れすぎていることに問題がある。

甘えとは、人に「こうしてもらいたい」ということである以上、それを満足させられるのは他人である。人に「こう思ってもらいたい」というのも同じである。この依存性が問題を引き起こす。人に「こう思ってもらいたい」といっても、人は必ずしもそのように自分のことを思ってくれるわけではない。そこで、甘えの満たされていない人は、不安になったり、怒ったり、すねたり、相手を憎んだり、恨んだりする。

不安になっている人の中には、自分を偽って、人に思ってもらいたい自分を演じる人が多い。「こう思ってもらいたい」ということの"こう"の内容が無理なのである。甘えの欲求が強く残っている人は、「こう思ってもらいたい」ために無理をする。その無理で消耗し、ときには神経症になる。

しかし、自分の世界ができてくると、その依存性がなくなり、人に対する要求が少なくなる。つまり、「こう思ってもらいたい」「こうしてもらいたい」という要求が少なくなるということである。人が強くなるということは、自分の世界ができるということである。

他人から必要とされることを必要としている人が、甘えている人なのである。これは子供が親に対して求めるものであって、親が子供に求めるものではない。

人は心理的成長の過程で、ある日、ふと他人からどう思われるかということがあまり気にならなくなるときがある。それは、やはり仕事そのものに自分の関心がわいてくるときであり、自分の世界ができてくるときであり、他人に思いやりができてくるときである。

また、錯覚のなくなるときでもある。つまり、他人がどう自分のことを思っているかということが気にならなくなるというときは、他人は自分のことをそんなに、どうとも思っていないということがわかるときである。自分が気にしているほど他人は自分のことを思っていないということがわかるときである。

別の言葉を使えば、自己中心的でなくなるときでもある。つまり、自分にとって自分が重要であるほどには、他人にとってこの自分は重要ではないと気がつくときでもある。

神経症的な人はいつも自分のことを考えている。自分にとって自分は唯一の重要な現実である。彼らは自分の現実と他人の現実とが違うということがわからない。自分にとって重要な自分が、他人にとっても同じように重要であると勘違いする。自分がいつも自分のことを考えているようには、他人は自分のことを考えていないということがわからない。

悩んでいる人は皆、自己中心的であるといわれるが、その通りである。悩んでいる人は、自分がいつも自分のことを考えているようには、他人は自分のことを考えていないということがわからない。そこで、他人への相談もしつこくなる。

自分にとって理想の自己像は重要である。悩んでいる人はそれに執着する。しかし、他人にとって自分がその理想の自己像を実現するかどうかということは、そんなに重要なことではない。

いつも他人が、"かくかくしかじか"に自分のことを思ってくれないと気が済まない神経症的な人にとって、生きることは辛い。悩んでいる人、神経症的な人、自己中心的な人、甘えている人は、皆同じである。

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。 

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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