テクノロジーによって民主主義が強化? 「Web3」が秘める可能性
2022年09月28日 公開
人々の願望を叶える「メタバース」
デスクトップPCや大型の携帯電話が中心だった時代から30年ほど経って、今のインターフェースはスマートフォンが主流となりました。その先の技術として位置付けられているVRやARの機器も、既に多くが市販されています。
まだ機器も大きく、その中の没入感も十分とは言えませんが、この先の技術進化によって機器は軽量化され、解像度も上がってリアル空間に近い仮想空間が形作られていくことはほぼ間違いないでしょう。
そのような技術と、ブロックチェーン技術によるデジタル上の所有の概念を総合したものをメタバースと表現することが多いようです。
今のスマートフォンを置き換えられるかどうかは、いまだ賛否が分かれます。それでもリアル空間と変わらない世界ができたとしたら、仮想空間上で生まれ変わることが可能になってきます。例えば、理想の外見やリアル世界では秘めている人格を表現する場にもなりえます。
人は内面に様々な願望を持っていますし、色々な面を併せ持っています。例えば現実世界ではなることが難しい、アイドル、お金持ち、モデル、役者、インフルエンサーなどに仮想空間ではなれるかもしれません。
また、現実世界とは真逆の性格にもなることもできるでしょう。そのような欲求をかなえる場が実現できれば、現実世界よりも長く仮想空間に滞在することになるかもしれません。メタバースには人の希望をかなえる様々な可能性が広がっているように思えます。
「DAO」は資本主義の欠点を補完できるか
Web3をお金の面で切ると暗号資産、空間の面で切るとメタバースが表れますが、組織の面で切るとDAO(ダオ、自律分散型組織)が見えてきます。
現在の会社組織は、会社法により規定されています。株主が会社を所有し、代表取締役、取締役等が経営を担い、具体的な業務は従業員が行うという構造です。
それに対して、DAOは「所有」と「経営」と「労働」が一体となっている概念となります。DAOへの参加者は、トークンを保有していて、その組織が得たベネフィットはトークンによって参加者全体に分配されるような形式をとります。なお、トークンに様々な種類を用意することで、参加者のインセンティブを貢献等に応じて調整することも可能です。
また、DAOの組織形態は中央の管理者がいないフラットな構造です。通常の会社では、ピラミッド型組織の上層部に重要な情報が集約されますが、DAO内では財務諸表などの重要情報も全て公開されます。意思決定も、主にトークン数に応じたDAOの定めに従って実施されます。
一部の人に富や権力が集まりやすい資本主義の欠点を補完する可能性を秘めた組織形態と言えそうです。
一方で、DAOといえども格差と無関係ではいられないようにも見えます。所有するトークン数による格差、あるいは参画するタイミングによる格差は生じるようにも思えますし、組織に貢献できる能力によっても格差が残るでしょう。
DAOが今の会社組織と本質的な違いがあるとすれば、今までの法律や慣習によらないという点から生じる手軽さと自由さかもしれません。
直接民主主義は効率的?
DAOは参加者全体が意思決定に関わる点で、本来的な意味での民主主義を強化しているとも言えます。直接民主制の現代版です。
古代ギリシャのアテネ周辺では政治的決定が市民の投票によってなされていたことは有名です。その後の世界では国民が増えるにつれ、代議士を通じた決定を行う間接民主制が一般的になりましたが、DAOはテクノロジーを用いて参加者が直接意思決定を担うことも可能にしています。
本当にDAOが主役に躍り出るためには、全員参加型の多数決による統治が本当に効率的なのかという問いと、リーダーは組織機能として不要なのかという問いに、それぞれ答えていくことが必要に思えます。
政治の世界では多数の票を重んじる結果、ポピュリズムがまん延して短期的な利益ばかり追うような政治決定がなされるケースも散見されます。都度多数決を取らず、長期的な視野をもったリーダーに個別の判断を任せることにも一定の合理性があります。
メリットデメリットが双方あるので、盲目的にDAOが全てを解決する救世主と信じることには危うさを感じます。
DAOは法律で守られた仕組みではないため、内容を精査しなければ、詐欺まがいのプロジェクトも存在するとも言われています。また、真に意義のある目的で用いられることもあれば、投機に近いものもあるようです。
それでもなお、格差や権益が固定化された現代の統治の仕組みに憤りを感じている人たちにとって、DAOはルールを一変する魅力的な響きを持つことも確かでしょう。
Web3の周辺では今、バブルのような兆候が見られますが、その先にどのような本質的な価値が残るのか、注視したい領域です。
本書『Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」』には、直接Web3に関わっていない人には見えにくい水面下の動きや斬新なサービスも多く紹介されています。通読すれば、未来を見通すために考えをめぐらせるいい機会となるでしょう。