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中小企業の底力!「技術と義理人情」が日本を支える

橋本久義(政策研究大学院大学教授)

2012年04月13日 公開 2022年12月26日 更新

人間は労働を通じて初めて心からわかり合える

前項で述べたように、日本の中小企業の社長は、仕事がなくても、社員の働き場所を何とかして作ろうとする。

辞めてもらう前に、あるいは会社を潰すまえに、やることがあるのではないかと必死に考える。中には、自宅の改修を従業員に命じて、給料を払おうとする社長さえいる。

そして一方では、「会社の調子が悪いのならば、給料はいりません。ある時払いでいいです」といい出す社員がいる。彼の給料を減らしたところで、会社が立ち直るというものでもないのだが、それをいい出す社員がいるというのも、日本らしい特徴といえよう。

そういう意味で、日本という国は、本当にありがたい国だと思う。だから、そういう日本の良さを壊すようなものを私は許せないのである。

私はたくさんの中小企業を訪ねてきたが、日本できちんとした教育をしているのは製造業の現場であり、とりわけ中小企業の現場ではないかと思う。

彼らは社長にしっかりとしつけられているから、おしなべて礼儀正しい。長幼の序もわきまえていて、人生の先輩にきちんと敬意を払う。

やはり中小企業は、社長と社員が一体となって現場で働くからだろう。製造業の現場は個人が好き勝手なことをやっていては成立しない。長幼の序、先輩の技術を尊敬する必要がある。

人と人が、最も心を通じ合わせるのは、仕事の場なのである。「遊びを通じては、人はわかりあえない。労働を通じて、初めて、人間というのはわかりあえる」といった人がいるが、私もまったく同感である。

私が知っている人々の中に、太平洋戦争で戦った戦友同士だというグループがいるが、彼らの結束が並はずれて固いのも、生死を共にして、同じ目的のために共に戦ったからであろう。ある意味、仕事仲間は戦友なのである。

ソニー創業者の井深大氏も同じようなことをいっていた。氏は、仕事の報酬は何かと聞かれて、「それはお金でもなく名誉でもなく地位でもない。仕事の報酬は仕事である」と答えたのである。

いい仕事をすれば、心が通じ合う多くの仲間を得ることができるし、新たな仕事がやってくることもあるということを、長い仕事経験から実感したにちがいない。

 

日本の道徳を守る中小企業も、日本の若者も立派である

2011年の就職率は、高卒も大卒も最悪だという発表があった。たしかに、景気は回復しても雇用は増えないという状況があるのも事実だ。能力主義とか、同一労働同一貸金というような方向を打ち出せばこういう結果になるのは目に見えていた。いまさら何をいっているんだと思う。日本型の雇用システムには優れた点が数限りなくあるのだ。

しかし、そういう前提はあるとしても、就職率の数字が上がらないのは、学生たちの大企業志向が招いているという面が多分にある。現に、大企業並みの収入を保証するといっているのに、求人広告を出しても、応じる人が少ないと嘆いている中小企業主がいる。

中小企業は、人数が少ない分、責任範囲が広く大きく、やりがいがあるのは間違いない。

最近は、優秀な中小企業がマスコミで取り上げられることも多く、中小企業のイメージも変わってきているが、まだまだ就職先として選択される率は高くないようだ。しかし最近は、大企業は派遣のような形でしか採用しないことが多くなってきているのに対し、中小企業では、即座に本採用ということもあって、多少認識が変わってきているのもたしかだ。

まだまだ中小企業に対する偏見もあって、中小企業が人を集めるのは就職難の時代でも難しい。

だから、3K(きつい・汚い・危険)職場といわれるような職場には、かって「ワル」といわれてきたような人間が集まってくる。「夜中はしっかり暴走族」というような人だ。

しかし、こうした若者たちへの雇い主の評価は実はきわめて高い。「暴走族というのはとってもいいよ」と彼らはいう。なぜならば、彼らは、暴走族仲間にもまれて鍛えられているから、根性がある。やれといわれたことはやる。見張っていろと命じられれば、一生懸命見張っている。

ちゃんとやることをやっていないと、リンチを受けたり、敵グループに襲撃されたときに危険に晒されたりするからである。しかも、指揮系統がはっきりしていて、ボスにいっておけば全員に伝わるし、サボることもないのである。

そんな彼らが、3年も経つと、「最近の若い奴らはなっていない。工夫が足りない。働かない」といい出すという。

日本というのは、そういう国なのである。3年も経つと、かつての自分と同じような後輩に向かって、「先輩に会ったらお辞儀をしろ」とか「ちゃんと大きな声で挨拶しろ」と、お説教を始めるわけだ。

こういう愉快な話を聞くと、私は、日本という国は、本当に立派だと思う。

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