興味のあることや、好きなことで新たにチャレンジしたいと思っても、年齢をネックと考えて踏み出せない人も多い。しかし政治・教育ジャーナリストの清水克彦氏は、若い頃とは違った経験や知識がアドバンテージとなると語る。40代から新たなチャレンジに踏み出すためのコツを紹介する。
※本稿は、清水克彦著『残業ゼロで自分を伸ばす! 40歳からの時間術』(PHP文庫)から一部抜粋・編集したものです
好きなことを3年続けてみる
ラジオパーソナリティを局のアナウンサー以外で選ぶとき、知名度や出演料の多寡などとともに重要視するのが、「ずっと喋っていられるかどうか」という部分である。
言葉が勝負のラジオ番組、特に数時間に及ぶワイド番組では、喋ることが何より好きで、ずーっと喋っていられるような人間でないとメインは務まらないのだ。
彼(彼女)らは、喋るのが好きだからこそ、早朝のワイドでも深夜のワイドでも厭わず局入りする。聴取者に向かって喋ることが生業であり、また将来も喋りによって新たな展望を切り拓いていこうと思っているからである。
これまで私は、「好きなこと」「興味があること」「得意なこと」を基本に、これからの人生を考えてみてはどうかと述べてきた。それは、次のように考えているからだ。
○20代や30代前半ならいざ知らず、40代ともなると、新しいスキルを身につけ「できること」がたくさん増えるよりも、「楽しみながらできること」が増えたほうが、いい人生になる。
○先々、人生をもっと好転させたいと考えるなら、「成功しよう」と肩に力を入れるよりも、「夢をかなえよう」と考えたほうが楽しい時間が過ごせる。
事実、私は、文章を書くことと人前で話すことを軸に50代以降の展開を考えてきたが、このうち、文章を書くことは、何時間、パソコンの前に座っていても苦にならないし、食事すら忘れて没頭できる唯一無二のものなのだ。
「マンガが好きだったから、長続きできたんだと思うよ」
これは、『島耕作』シリーズや『黄昏流星群』などで知られる漫画家、弘兼憲史氏の言葉である。
「取材して記事を書くことを負担に感じなかったから、続けられたんだよね」
こちらは、テレビ番組やラジオ番組に引っ張りだこのジャーナリスト、二木啓孝氏の言葉だ。
二人とも番組を通じて親しくさせていただいているが、彼らと接していていつも感じるのは、(好きなこと、興味があること、得意なことで勝負できている人は強い)ということだ。
したがって、私たちも、これまでのキャリアを活かしながら、さらに好きな分野で勝負したいと考えるなら、そういう環境に自分を持っていく努力をしてみればいいのではないかと思う。
会社勤めの場合、制約もあるだろうが、人事異動を前に、「こういう分野を任せてほしい」とアピールするとか、日頃から「○○なら彼(彼女)」というイメージ作りをしておくのだ。
現在の仕事が好きであれば、今流行りのワークライフバランス(=仕事と生活のバランス)どころか、家族の理解を得たうえで、ワークライフアンバランスになるくらい没頭するのも手だ。
何事も、没頭するくらいやってみれば、若い頃とは違って経験や知識があるので、40代だからこそ発見できるというものがあるかもしれない。
もしこれまでのキャリアではなく、違うジャンルで未来を切り拓こうと思うなら、興味があることを、まずは3年継続してみることだ。
私の場合も、海外取材に不可欠な英語力は3年計画でそこそこのレベルにまで引き上げたし、大学講師も、様々な方面に「どこかに口はありませんか?」と言い続けて数年後に話が舞い込んだ。
書く仕事も、3年以上続けたあたりで、こちらから出版社に原稿を持ち込まなくても次々とオファーがくるようになり、ベストセラーにも恵まれた。
いずれも好きなことであり、没頭できることだったから継続できたし、結果がついてきたのだと思う。
私のような普通のサラリーマンが40歳を機にモノにできたのだ。誰だって最初はうまくいかなくても、ある程度、結果が出るまで継続すれば、今までの自分では考えられない可能性が目の前に拓けてくるに違いない。
本当に魅力のある人は「3つの顔をもつ人」
人間には大きく分けて「親の心」「大人の心」「子どもの心」の3つが存在する。
これは「交流分析」という心理療法で自己分析にも使われるカテゴリーだが、私は、初対面の相手や付き合いが浅い相手に対し、あなたの印象を植えつける意味でもカギとなる言葉だと考えている。
「親」「大人」、そして「子ども」...。この3つの心を見せることができれば、あなたの魅力は倍増する。
職場の中でもっとも表面に出ているのは「大人の心」だろう。
社会的責任と企業や団体など所属する組織の看板を背負っているアラフォー世代は、20代や30代前半のようにチャラチャラしてはいられないので、誰しもが、大なり小なり、年相応の知性や理性、キャリアに裏打ちされた自信と落ち着きを、表情や立ち居振る舞いに出そうとするからだ。
その次に表面に出るのは、おそらく「親の心」だ。
実際に子どもがいる、いないにかかわらず、年齢を重ねれば、男性は鷹揚に振る舞う部分や厳しい部分などの父性が出てくるし、女性もまた、温かさや優しさ、慈愛の心といった母性がにじみ出るようになる。
そんな中で、もっとも表面化しにくいのが「子どもの心」である。
「子どもの心」とは、好奇心や遊び心、趣味に興じたり、好きなことに没頭したりする、子どものようにみずみずしい心のことだ。
人生を楽しんだり、仕事で何かを思いついたりするには必要な要素なのだが、(ビジネスでは、あまり子どもじみたことはできない)と考える人たちは、「子どもの心」を、とかくセーブしようと努める。
そうでなくても、自宅と職場を慌ただしく往復し、時間に追われる日々を繰り返す中で、少年少女のような感性をしだいに失っていくケースが多い。しかしながら、コミュニケーションを豊かにし、多くの人脈を築いていくには、この3つともが重要なのだ。
たとえば、恋愛で人を好きになる場合を考えてみよう。
中には、見た目でひと目ぼれするケースもあるにはあるが、真面目一辺倒で仕事に向き合っている人が、実はすごく茶目っ気があったり、バリバリのキャリアウーマンタイプが、実は料理や掃除が大好きな家庭的な人であったりと、相手の中に意外性や人間的な広がりを見出したとき、魅力を感じるケースが多いのではないだろうか。
これは、人づき合いも同じだ。コミュニケーションの中で、あなたが持っているいろいろな顔を相手に見せられれば、あなたの印象は大きくなる。(この人は、仕事もできそうだが、なかなか面白そうな人だ)こんなふうに思ってもらえるはずだ。
たとえば、仕事で初対面の相手やまだ付き合いが浅い相手とコミュニケーションを取る場合、
○企画意図やデータをきちんと示す「大人の心」
○相手の要望に耳を傾け、どんな話の展開でも余裕を見せ笑顔で対応する「親の心」
○商談が終わり、少しでも時間があれば、「今、夢中になっていること」など、個人的な話をする「子どもの心」
このような要素を限られた時間の中に盛り込むことができれば、あなたという人間の幅の広さや懐の深さが、相手の心に強く刻まれることだろう。
「いくら損得ゲームの中に生きていても、人間にはある種のピュアさが必要」とは、かつて東京屈指の有名小学校、慶應義塾幼稚舎の舎長を務めた、現・慶應義塾大学大学院教授の金子郁容氏の言葉だが、「大人の心」や「親の心」だけでなく、
「私って実はこんな面があるんですよ」などと、仕事の顔とは180度違うピュアな「子どもの心」を見せられるよう、趣味や遊びに費やす時間もできるだけ確保したいものだ。
ここでも先の項で述べた3年計画が有効だ。
私の場合はガーデニングなのだが、釣りでもゴルフでも温泉めぐりでもいい。夢中になれるものを3年間続けてみるといい。3年継続すれば、アマチュアレベルではかなりの知識と経験ができるので、聞き手を引き込む話ができるようになる。